事案の経緯について
ご依頼者様は、お母様を亡くされました。法定相続人は、子3名です。
ご依頼者様の希望としては、①お父様が亡くなられる数年前から預貯金が引き下ろされている一方、引き下ろされた日とほぼ同じ時期にほぼ同じ金額が、他の相続人名義の預金口座に入金されていたこと②他の相続人が、お母様から住宅購入資金の贈与を受けていたことが、いずれも特別受益であることを前提に遺産分割を行うことでした。
事案の概要
亡くなられた方 | 母親 |
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相続人 | 子3名 |
解決までの道筋
弁護士は、他の相続人に対して連絡文書を送付し、①②の事実を具体的に指摘してご依頼者様の希望を伝えました。
①の預金に関してですが、他の相続人は、弁護士からの連絡文書を受け取った後すぐに、これが特別受益であることを前提とすることに同意するとの意向を示してきました。
一方、②の住宅購入資金の贈与に関しては、ご依頼者様ご指摘の時期に他の相続人が贈与を受けたこと自体はお認め頂きましたが、贈与を受けた金額はご依頼者様ご指摘の金額よりも少ないから、実際に贈与を受けた金額を限度として特別受益とする内容でしか合意できないとの意向を示してきました。
ご依頼者様は、②の住宅資金の贈与の金額について、証拠がない(当時のご依頼者様の御記憶しかない)ことや、もともと裁判にしたくないという意向をお持ちだったことに加え、裁判にしても、他の相続人が認めない限り、結局贈与金額がご依頼者様のご記憶どおりの金額であったことを示す証拠が必要になることを理解され、他の相続人が示してきた贈与金額が特別受益であることを前提とした内容で合意することとなりました。
解決のポイント
- 被相続人名義の預貯金口座からの金銭引き下ろしが問題となる事例は非常に多いです。被相続人による引出しなのか、無断引出しなのか(無断引出しであればその引出しされた金銭は遺産に戻されるべきことになります。)、贈与なのか(贈与であれば特別受益や遺留分の問題になります。)が激しく争われることもあります。
- 本件では、無断引出しではなく贈与であることを前提に遺産分割協議を行うこととなりました。実際に誰に対する贈与であったのかは、他の相続人名義の預金口座の取引履歴をチェックすることにより判明しました。他の相続人名義の預金口座の取引履歴をチェックできたことは(そのようなことができる事案ばかりではありません。)、本件の解決を早めることに役立ちました。
- 一方、住宅購入資金の贈与については、その事実があったこと自体には相続人の間に争いはないものの、金額に関して認識が異なるということをよく経験します。そもそも、特別受益については、相手方に特別受益があったことを主張する側が立証責任を負うとされており、住宅購入資金の贈与を受けた側が当時の通帳を提出して「贈与を受けたのはこれだけである。」という趣旨の主張をしてきたときは、特別受益を主張する側がそれ以上の証拠を持っていないと、立証が困難であることが多いです。
ご依頼者様は、その点をよく理解され、費用や時間を要せずに解決することに至りました。
※本事案は当事務所でお取り扱いした事案ですが、関係者のプライバシー保護等に配慮し、事案の趣旨を損なわない範囲で事実関係を一部変更している箇所がございますのでご了承ください。