最終更新日:2026年8月27日
借金があるときの「遺留分侵害額(相手に請求できる金額)」の計算は、①遺留分の基礎となる財産額を計算する場面と、②実際に請求できる金額を計算する場面の2つのステップで、借金を反映して算定します。
まず、遺留分の基礎となる財産額を決めます。故人のプラスの財産に生前贈与の額を足し、そこから借金の全額を差し引きます。この金額に、法律で決められた割合(遺留分割合)を掛けたものが、あなたの最低限の取り分である「遺留分」です。
次に、実際に請求できる金額を計算します。先ほどの「遺留分」から、あなたが相続によって取得すべき財産や特別受益(生前の特別な援助など)を引き、最後に「あなたが引き継いだ借金の額」を加えます。
遺留分とは
遺留分とは、故人の兄弟姉妹以外の相続人に法律上保障された、最低限の遺産の取り分です。
たとえば「すべての財産を長男に渡す」という遺言があっても、配偶者や子どもなどは、遺留分に足りない分を長男に対し、金銭で請求できる可能性があります。この不足分を「遺留分侵害額」、その請求を「遺留分侵害額請求」といいます。
遺留分を請求できるのは、配偶者、子ども、子どもがいない場合の親などです。兄弟姉妹には遺留分がありません。遺留分を請求できる人のことを「遺留分権利者」といいます。

遺留分における借金(債務)の扱い
遺留分を計算するときは、預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金などの債務も考慮します。
大切なのは、債務の扱いは「相続人同士の関係」と「債権者との関係」で異なるという点です。
相続人同士の関係では、誰が最終的に債務を負担するかが問題になります。一方、債権者との関係では、債権者がどの相続人に返済を求めることができるかが問題になります。
この違いは、遺留分侵害額を計算するときにも影響します。
相続人間での扱い
相続人が複数いる場合、借金などの相続債務は、原則として各相続人が法定相続分に応じて負担します。
ただし、遺言で相続分が指定されている場合は、相続人間では、その指定された割合に応じて債務を負担することになります。
たとえば、特定の相続人に全財産を相続させる遺言があり、それがその相続人の相続分を全部と指定する趣旨と解される場合、相続人間では、その相続人が借金などの相続債務も承継することになります。
この場合、相続人間における遺留分侵害額の計算上、遺留分権利者が承継する債務は0円として扱われます。そのため、遺留分侵害額を計算するときに、遺留分権利者の法定相続分に応じ債務を加算することはできません。
債権者との間での扱い
債権者との関係では、相続人間で決めた債務の負担割合が、そのまま通用するとは限りません。
たとえば、遺言で特定の相続人が借金を負担することになっていても、債権者は、各相続人に対して法定相続分に応じた返済を求めることができます。
そのため、遺留分権利者が遺言上は債務を承継しないと扱われる場合でも、債権者から返済を求められる可能性があります。
ただし、債権者が、遺言の指定通りの債務引き受けを免責的に認めた場合などは、遺留分権利者が実質的に債務を負担しないことになり、計算結果が変動することがあります。
借金がある場合の遺留分の計算方法
借金がある場合の遺留分の計算方法のルールは次のとおりです。
計算ルール
① 遺留分の基礎となる財産額の計算
まずは、遺留分の計算のもとになる全体の財産額を求めます。
遺留分の基礎となる財産額 = 亡くなった時点のプラスの財産 ─ マイナスの財産(借金・債務)
② 各人の「遺留分額」の計算
次に、「遺留分の基礎となる財産額」に各相続人の「遺留分割合」を掛け合わせて、本来保障されている権利の額(遺留分額)を算出します。
各人の遺留分額 = 遺留分の基礎となる財産額 × 個別の遺留分割合
③ 「実際に請求できる金額(遺留分侵害額)」の計算
最後に、受け取った遺産や引き継ぐ借金を考慮して、不足している分の金額を計算します。
実際に請求できる金額 = 遺留分額 ─ もらえる遺産の額 + 引き継ぐ借金の額
④ まとめ
まとめると、以下のようになります。
- プラスの財産から借金を引いて「基礎となる財産」を出す
- そこに「自分の遺留分割合」を掛ける
- すでに「もらえる遺産」や「もらった財産」を差し引き、「引き継ぐ借金」を足した額が請求できる金額となる
計算ルールに基づく具体例
言葉だけではわかりにくいので、具体例で確認してみましょう。
事例
父が亡くなり、子ども2人のうちBさんがAさんに遺留分侵害額を請求するケースです。
| 項目 | 金額・内容 |
|---|---|
| 故人 | 父 |
| 相続人 | 子ども2人(Aさん・Bさん) |
| 遺留分を請求する人 | Bさん |
| 遺留分を請求される人 | Aさん |
| 相続開始時のプラスの財産 | 5000万円 |
| 父の債務 | 1000万円 |
| Bさんの法定相続分 | 1/2 |
| 遺言 | 全財産をAに相続させる。負債は法定相続分にする。 |
計算の結論
計算の結論は次のとおりです。
- Bさんの本来の保障額(遺留分)は 1000万円 です。計算式は【(5000万円-1000万円)×4分の1】です。
- Bさんは1円も現時点で取得できていません。
- 他方、Bさんは債務1000万円の2分の1の債務である500万円を対外的には負担します。
- そのため、BさんがAさんに請求できる遺留分額は1500万円です。計算式は【1000万円+500万円】です。
なお、本事例はわかりやすさを重視した計算となっています。債務の負担状況や実際の返済の有無によって、相手に請求できる金額の計算方法は大きく変わります。債務がある場合の正確な請求額については、個別の状況に応じた弁護士への確認をおすすめします。

借金がある場合の計算方法の注意点
借金を遺留分の計算に入れるときは、その借金が本当に遺留分の基礎となる財産額から差し引けるものかを確認する必要があります。
通常の借金であれば、遺留分の基礎となる財産額を計算するときに差し引きます。しかし、保証債務や抵当権付きの借金は、通常の借金とは扱いが異なることがあります。
故人が負っていた保証債務の扱い
故人が、他人の借金の保証人や連帯保証人になっていた場合、その保証債務は原則として遺留分の基礎となる財産額から差し引きません。
保証人が実際に支払うことになるかどうかは、その時点ではまだ分からないためです。また、仮に保証人が支払ったとしても、本来の借主に対して返還を求められる可能性があります。
ただし、本来の借主がすでに破産している、行方不明になっているなど、保証人が代わりに支払う可能性が高く、しかも借主から回収できる見込みがない場合は、例外的に差し引けることがあります。
故人が負っていた抵当権付債務の扱い
抵当権とは、債務の返済が受けられない場合に備えて、土地や建物などの不動産を担保にする権利です。このように、抵当権によって担保されている債務を「抵当権付債務」と呼びます。
この場合、遺留分の基礎となる財産額から抵当権付債務を差し引けるかどうかは、故人自身が借金を負っていたか、担保になっている不動産が遺産に含まれるかによって変わります。
| 故人自身の借金の有無 | 担保不動産が遺産に含まれるか | 遺留分計算での負債の扱い |
|---|---|---|
| 負っていた | 含まれる(故人所有) | 差し引いて計算する |
| 負っていた | 含まれない(他人所有) | 差し引いて計算する |
| 負っていない | 含まれる(故人所有) | 原則として差し引かない。ただし、抵当権の存在を不動産の評価に反映する必要がある場合がある |
| 負っていない | 含まれない(他人所有) | 差し引くかどうかは問題にならない |
故人自身が借金を負っていた場合は、担保があるかどうかにかかわらず、その借金を差し引いて計算します。最終的に故人が返済すべき借金であることに変わりはないためです。
一方、故人が自分で借金をしたのではなく、他人の借金の担保として自分の不動産に抵当権を設定していた場合、その借金を故人の債務として遺留分の計算から差し引くことは、原則としてできません。
ただし、抵当権が付いていることで、不動産の価値が下がる可能性はあります。そのため、実際に担保が実行される可能性や、借金をした本人からお金を回収できる見込みなどを踏まえて、不動産の価値を個別に判断する必要があります。

よくあるご質問
最後に、遺留分における借金の扱いについて、よく寄せられるご質問にお答えします。
未払いの税金は「借金(債務)」として遺留分の計算から差し引ける?
故人が生前に負っていた税金の未払い分は、原則として、遺留分の計算から差し引くことができます。
たとえば、故人の所得に対して課される所得税や、すでに納税義務が生じていた固定資産税などの未払い分です。
一方で、相続をきっかけに相続人に課される相続税は、亡くなった方自身の債務ではありません。そのため、遺留分の計算から差し引くことはできません。
税金の種類によって扱いが変わることがあるため、判断に迷うときは税理士や弁護士に確認しましょう。
葬儀費用は「借金(債務)」として遺留分の計算から差し引ける?
葬儀費用は、原則として、遺留分の計算から差し引くことはできません。
遺留分の計算で差し引くのは、故人が亡くなった時点で負っていた債務です。葬儀費用は亡くなった後に生じる費用であり、故人自身の債務とはいえないためです。
なお、相続税の計算では、一定の葬式費用を遺産総額から差し引ける場合があります。ただし、これは相続税の計算上の扱いであり、遺留分の計算とは区別して考える必要があります。
遺産(プラスの財産)よりも借金が多い場合、遺留分は請求できる?
遺産よりも借金が多い場合、遺留分を請求できないことがあります。
遺留分の基礎となる財産額は、プラスの財産に一定の生前贈与を加え、そこから借金などの債務を差し引いて計算します。その結果、金額がゼロまたはマイナスになると、遺留分も発生しません。
ただし、多額の生前贈与がある場合は、それを加えることで遺留分が発生することもあります。借金が多い相続では、相続放棄の期限にも注意しながら、早めに検討することが大切です。
相続放棄をした場合、遺留分の請求はできる?
相続放棄をした場合、遺留分を請求できません。
相続放棄をすると、その人は最初から相続人ではなかったものと扱われます。遺留分は相続人に認められる権利なので、相続人でなくなった人は遺留分侵害額請求もできません。
なお、遺産分割協議で財産を受け取らなかっただけの場合は、相続放棄とは異なります。この場合、その人は相続人のままです。相続放棄と、遺産分割で財産を取得しないことは、区別して考える必要があります。
まとめ:悩んだら弁護士に相談
故人に借金があった場合、遺留分の基礎となる財産額を計算する場面と、実際に請求できる遺留分侵害額を計算する場面の両方で、借金を考慮する必要があります。
また、保証債務や抵当権付きの借金、未払いの税金などは、通常の借金と扱いが異なることがあります。
自分のケースで遺留分をいくら請求できるのか、どの借金を差し引けるのか迷う場合は、相続の実務に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
よつば総合法律事務所では、遺留分をめぐるご相談をお受けしています。故人に借金があって、遺留分の計算に迷うときは、早めにご相談ください。




