最終更新日:2026年8月25日
「親から結婚資金を援助してもらった」
「自分だけ大学の学費や留学費用を出してもらった」
「住宅購入時に多額の資金援助を受けた」
このような生前贈与は、相続が発生した際に「特別受益(とくべつじゅえき)」として扱われ、その相続人の取り分が減ることがあります。
この記事では、どのような生前贈与が特別受益に当たるのか、その基本的な判断基準を解説するとともに、「学費」「結婚資金」「住宅資金」「生活費の援助」といった具体的なケースごとの扱いについて、弁護士がわかりやすく解説します。
特別受益とは
特別受益とは、亡くなった方(故人)から生前に特別な財産の援助(遺贈や生前贈与)を受けた、相続人の「特別な利益」のことです。
具体的には、故人が相続開始時に有していた財産に特別受益に当たる生前贈与を加えて総額を算出します。その総額を法定相続分で分けたあと、特別受益に当たる生前贈与や遺贈分を差し引いたものが、その人の最終的な相続分となります。

特別受益に当たるか否かの判断基準
民法で決まっている特別受益は次の4つです(民法903条)。
- ① 遺贈(遺言書により財産を譲ること)
- ② 婚姻のための贈与
- ③ 養子縁組のための贈与
- ④ 生計の資本(独立して生活するための資金)としての贈与
特別受益に当たるか否かの判断は難しい場合もありますが、「遺産の前渡し」と評価できる程度であれば特別受益に当たります。一方で、「扶養義務の範囲内の援助」であれば、特別受益には当たりません。
また、特別受益は相続人間の不公平の解消を目指す制度です。そのため、「遺産の前渡し」といえる生前贈与があったとしても、他の相続人も同程度の贈与を受けているなど相続人間の不公平が生じていないのであれば、特別受益はないものとして計算することが多いです。
以下では具体的なケースをもとに解説します。
遺贈
遺贈とは、遺言によって遺言者の財産の全部または一部を贈与することです。たとえば、自宅不動産など特定の財産を、特定の相続人に遺言書によって渡す場合です。
遺贈は原則として特別受益となります。
学資
学資とは、高校・大学の入学金や授業料など、教育のための費用のことです。特に、高校卒業後の専門学校、大学、大学院といった高等教育の学資については「生計の資本」として、特別受益になることがあります。
たとえば、一人の子が他の子に比べて特別に多額の学資の支出をしてもらっていた場合には特別受益になることがあります。
しかし、現在では兄弟姉妹が全員大学に進学することも珍しいことではないため、公立や私立などで費用にある程度の差が生じたとしても、親の子に対する扶養義務の範囲内の支出であるとして、遺産の前渡しとはみなされず、特別受益にはならないこともあります。
結婚資金
結婚資金のなかでも、持参金や支度金と呼ばれる多額の金銭の生前贈与は、特別受益になることがあります。
一方で、結納金は両家の社交上の儀礼の意味合いを持つため、遺産の前渡しとはいえず、特別受益にならないのが一般的です。挙式費用についても、同様に遺産の前渡しの意味合いは薄いと考えられ、特別受益にはならないのが一般的です。
誕生祝・入学祝
親としての扶養義務の範囲内でなされたお祝いであれば、特別受益にはなりません。
一方で、故人や相続人の経済状況や生活状況に照らして極めて高額である場合には、遺産の前渡しと認められ、特別受益になることがあります。
生活費の援助
たとえば、子どもが病気などにより経済的な自立が困難な場合に、親が生活費を援助することは、扶養義務の範囲内の援助であるとして、特別受益にはならないのが一般的です。
一方で、十分に働くことができ、経済的に自立している子どもに対する援助は、特別受益になることがあります。

住宅資金
住宅を取得するための資金を贈与することは、生計の資本(独立して生活するための資金)として役立つような財産の給付であるため、特別受益になることが一般的です。
不動産の無償利用
土地の無償利用の場合
遺産である土地の上に、故人から許諾を得て、相続人の一人が建物を建てて住んでいる場合です。
このような無償利用については、故人から土地の使用借権(無償で借りて使用する権利)の生前贈与があったとして、特別受益になることがあります。金銭価値の算定方法としては、更地価格の1~3割程度が多いです。
建物の無償利用の場合
故人と同居していた場合には、建物を主として占有していたのは故人であり、同居の相続人は占有を補助していたにすぎないと考えられるため、相続人は使用借権を受けておらず、特別受益にはならないのが一般的です。
他方、相続人が故人と同居せずに建物に住んでいた場合にも、建物の使用借権は土地の使用借権に比べて経済的価値が低いことや、建物の無償利用には遺産の前渡しという性格が薄いことから、特別受益にはならないのが一般的です。
債務の肩代わり
特別受益になるのは生前「贈与」です。そのため、借金の肩代わりが「贈与」にあたるかどうかがポイントです。
贈与とは、贈与者(親)が受贈者(子)に対して無償で財産を渡すことです。そのため、借金の肩代わりに将来の返済義務などの対価がない場合には、特別受益になることがあります。
他方、借金の肩代わりに将来の返済義務などの対価がある場合には、贈与にはあたらず、特別受益にもなりません。この場合、借金の肩代わりをした者(故人)は、元々借金を抱えていた者(相続人)に対して、肩代わりをした分を請求できる権利を持っています。その権利を遺産として評価することになります。

よくあるご質問
何年前まで遡って特別受益の主張はできる?
遺産分割における特別受益の主張には原則として期間制限はありません。何十年前の生前贈与であっても対象となります。
ただし、「相続開始(亡くなった日)からの期間」には注意が必要です。相続開始から10年を経過した後にする遺産分割では、原則として特別受益の主張ができません。
生前贈与の金額は「もらった当時の金額」と「現在の価値」のどちらで評価する?
生前贈与(特別受益)の金額は、「もらった当時の金額」ではなく、原則として「相続開始時(亡くなったとき)の価値」で評価されます。
特別受益を証明するにはどのような証拠が必要?
特別受益の証明には客観的な証拠が必要です。具体的には、故人の預貯金通帳や金融機関の取引履歴、贈与契約書、不動産の登記簿謄本、贈与税の申告書などが該当します。
資金の移動や贈与の事実が明確に分かる資料を集めることが重要です。
まとめ:悩んだら弁護士に相談
特別受益に当たるか否かはケースバイケースであり、専門的な判断が不可欠です。特別受益は相続分に直接関わる問題ですので、独断で主張するとかえって紛争を大きくしてしまうこともあります。悩んだときは、弁護士にご相談ください。




