最終更新日:2026年8月21日

監修者
よつば総合法律事務所 弁護士 加藤貴紀

遺留分は、被相続人が亡くなったときの財産に、過去の生前贈与の一部を加えて計算します。原則として対象になるのは、相続人への特別受益にあたる贈与なら亡くなる前の10年間、相続人以外の人への贈与なら亡くなる前の1年間にされたものです。

どの贈与が対象になるかは、相手や時期、贈与の内容によって変わります。判断に迷うときは、相続に詳しい弁護士に相談すると安心です。

遺留分とは

遺留分とは、相続人のうち、一定の人に認められる、遺産の最低限の取り分のことです。

相続人とは、亡くなった方(被相続人)の財産を受け継ぐ権利を持つ人のことをいいます。配偶者や子ども、親、兄弟姉妹などが相続人にあたります。

ただし、相続人全員に遺留分があるわけではありません。遺留分があるのは、配偶者、子ども、親などです。一方、兄弟姉妹は相続人になることはありますが、遺留分は認められていません。

被相続人は、遺言によって、自分の財産を誰にどれだけ渡すかを自由に決められます。ただし、遺言で財産の渡し方を完全に自由に決められると、配偶者や子ども、親など、被相続人と生活面や経済面で近い関係にあった相続人が、何も受け取れず、生活に困ることがあります。そこで法律は、一定の相続人に最低限の取り分を保障しています。

たとえば、遺言書に「全財産を長男に渡す」と書かれていても、ほかの相続人の取り分がゼロになるとは限りません。遺留分として、一定の金額を受け取れることがあるからです。

このようなとき、遺留分を持つ相続人は、財産を受け取った長男に、自分の遺留分にあたる金銭を請求できます。これを遺留分侵害額請求といいます(民法1046条)。

なお、受け取れるのは金銭に限られます。財産そのものを取り戻すわけではありません。

遺留分の計算方法

遺留分は、大きく4つのステップで計算します。おおまかな流れは次の通りです。

ステップ1:遺留分の基礎となる財産を出す

「被相続人の財産の価額」に「一部の生前贈与の価額」を加え、「被相続人の借金の全額」を引きます。これが、遺留分の基礎となる財産です。

ステップ2:遺留分の基礎となる財産に「遺留分の割合」をかける

遺留分の基礎となる財産に、遺留分の割合をかけます。これで、遺留分を持つ相続人全体に最低限保障される遺留分の合計が分かります。主な相続人の組み合わせによる割合は、次の通りです。

原則・例外 遺留分の割合
原則 基礎となる財産の2分の1
例外:相続人が直系尊属(父母や祖父母)のみの場合 基礎となる財産の3分の1

ステップ3:「その人の取り分の割合」をかける

遺留分を持つ相続人全体の遺留分を、それぞれの相続人の「法定相続分」に応じて分け合い、個人の遺留分額を出します。主な相続人の組み合わせによる割合は次の通りです。

相続人のパターン 総体的遺留分 法定相続分 個別的遺留分
配偶者のみ 1/2 1/1 1/2
子どものみ 1/1 1/2
配偶者と子ども 配偶者 1/2 1/4
子ども 1/2 1/4
配偶者と直系尊属 配偶者 2/3 1/3
直系尊属 1/3 1/6
配偶者と兄弟姉妹 配偶者 3/4 1/2
兄弟姉妹 1/4 なし
直系尊属のみ 1/3 1/1 1/3
兄弟姉妹のみ なし 1/1 なし

子どもや父母が複数いるときは、表の「子ども」「父母」の割合を人数で分けます。たとえば配偶者と子ども2人なら、子ども全体の遺留分は4分の1なので、子ども1人あたりは8分の1ずつです。

ステップ4: すでに受け取った財産などを調整して、最終的な金額を出す

ステップ3で計算した個人の遺留分額から、その人が受けた遺贈や特別受益の額を差し引きます。

また、相続によって遺産(プラスの財産)を得た場合はその額も差し引きますが、同時に借金などのマイナスの財産を引き継いだ場合は、その借金分を考慮して(プラスの財産から借金を差し引いた「純粋なプラスの取り分」を差し引いて)最終的な請求額を計算します。

遺留分における生前贈与の計算方法

遺留分は、ステップ1のとおり、一部の生前贈与を亡くなったときの財産に加えて計算します。「一部の生前贈与」にあたるか否かは、誰への贈与か、いつの贈与か、どのような贈与かによって変わります。

「遺留分の基礎となる財産」に含む生前贈与

遺留分の基礎となる財産に含める生前贈与は、次の表のとおりです。

贈与の相手 含める期間 おもな条件
相続人 被相続人が亡くなる前の10年間 特別受益にあたること
相続人以外の人 被相続人が亡くなる前の1年間 特になし

それぞれ、贈与の相手ごとに解説していきます。

相続人への贈与

相続人への贈与のうち、被相続人が亡くなる前の10年間にされたもので、かつ、「特別受益」にあたるものを遺留分の基礎となる財産に含めます。

特別受益とは、一言でいえば「遺産の前渡し」といえるような、まとまった特別な利益のことです。これらを遺留分の基礎となる財産に含むことで、生前にたくさん財産をもらっていた人と、もらっていなかった人の間の不公平をなくす仕組みになっています。

たとえば、次のような贈与は特別受益と判断されやすいでしょう。

  • 結婚のための費用や持参金
  • 住宅の購入資金やマイホームの土地
  • 事業を始めるための開業資金
  • 子どもの中で一人だけ多額に出してもらった学費

反対に、お年玉や誕生日のお祝い、ふだんの仕送りのような少額の援助は、特別受益にあたらないことが多いです。

また、相続人への特別受益にあたる贈与を10年までさかのぼるのは、「遺産の前渡し」による遺留分逃れを防ぐためです。ただ、何十年も前の贈与まで調べて計算するのは大きな負担となるうえ、関係者に思わぬ負担が生じることもあります。そのため、10年で区切られています。

相続人以外の人への贈与

相続人以外の人への贈与では、被相続人が亡くなる前の1年間にされたものを遺留分の基礎となる財産に含めます。特別受益のような条件はありません。

相続人以外の人の贈与の期間が1年と短いのは、相続人と違って、もともと遺産をもらう立場ではないからです。そのため、相続人のように長くさかのぼる必要がなく、被相続人が亡くなる直前の1年だけが対象になります。

期間にかかわらず含める贈与

被相続人が亡くなった日から10年(相続人以外は1年)より前の贈与でも、遺留分の基礎となる財産に含めることがあります。贈る人と受け取る人の両方が、ほかの遺留分権利者の遺留分を侵害すると分かったうえで行った贈与です。

たとえば、ほかの遺留分権利者の取り分が減ると分かったうえで、示し合わせて贈与したようなケースが当てはまります。このような贈与は、期間が過ぎていても遺留分の基礎となる財産に含まれます。

「遺留分の基礎となる財産」に含まない生前贈与

反対に、遺留分の基礎となる財産に含まない生前贈与もあります。大きく分けて2つです。

1つは、期間より前にされた贈与です。期間は、相手が相続人で、特別受益にあたる贈与なら10年、相続人以外の人への贈与なら1年でした。たとえば、子どもへ12年前に贈った住宅資金や、知人へ3年前に贈ったお金は、原則として含まれません。

もう1つは、相続人への贈与でも、特別受益にあたらない日常的な贈り物です。お祝いや、ふだんの少額の援助などが当てはまります。

なお、会社の後継者が事業を引き継ぐために受け取った株式などは、親族の合意があれば計算から外せる特別な制度もあります(経営承継円滑化法4条1項1号)。中小企業の事業承継で使われる仕組みです。

このように、生前贈与を計算に入れるかどうかは、贈与の相手や時期、内容によって細かく変わります。判断に迷うときは、弁護士に相談することをおすすめします。

よくあるご質問

ここでは、遺留分における生前贈与の計算で、よく問題になる点をまとめました。

不動産や株式は贈与時と死亡時のいずれの金額で計算する?

不動産や株式は、原則として、被相続人が亡くなったとき(相続開始時)の価値で計算します。

たとえば、贈与を受けたときは安かった土地が、亡くなったときに値上がりしていたとします。このときは、値上がり後の金額が基準になります。逆に値下がりしていれば、下がった後の金額で計算します。

株式も同じ考え方です。贈与のあとに値上がりや値下がりがあっても、亡くなったときの価値で計算します。

どの贈与も、亡くなったときの価値にそろえて計算します。そうすることで、もらった時期による有利・不利がなくなり、公平に計算できます。

贈与の事実をどう証明する?

贈与があったことは、記録や書類といった証拠によって証明するのが基本です。口約束だけでは「言った、言わない」の争いになり、証明するのが難しくなります。

たとえば、次のようなものが証拠になります。

  • 預金通帳や振込の記録
  • 贈与契約書
  • 不動産の登記簿(名義変更の記録)
  • 贈与税の申告書

古い贈与ほど記録が残りにくく、関係者の記憶もあいまいになりがちです。そのため、生前贈与が気になるときは、早めに資料を確認しておくと安心です。

なお、被相続人の通帳の取引履歴は、相続人であれば金融機関に開示を求めることもできます。集める資料に迷ったら、弁護士に相談しながら整理するとよいでしょう。

遺言書に「生前贈与した分は、遺留分の計算に入れないでほしい」と書かれていた場合、どう計算する?

遺言書に「生前贈与した分は遺留分の計算に入れないでほしい」と書かれていたとしても、実際に他の相続人の遺留分を侵害している場合には、その記載によって遺留分の請求を防ぐことはできません。

遺留分は法律で保障された強い権利であるため、遺留分が侵害されているケースでは、被相続人の意思に関わらず、その生前贈与も計算に含めて遺留分を計算・請求することになります。

まとめ:遺留分の計算に迷ったら弁護士へ

遺留分を計算するときは、被相続人が亡くなったときの財産だけでなく、過去の生前贈与も含めて計算することがあります。どの贈与を遺留分の基礎となる財産に含めるかは、贈与の相手や時期、内容によって変わるため、判断に迷いやすいところです。

特に、不動産や株式の評価、特別受益にあたるかどうかの判断は、専門的な知識が求められる場面です。

遺留分の計算に迷ったときや、生前贈与が問題になりそうなときは、相続に詳しい弁護士に相談してみてください。よつば総合法律事務所は、相続のご相談を随時受け付けています。お困りの際は、お気軽にご連絡ください。

監修者
よつば総合法律事務所 弁護士 加藤貴紀

名古屋事務所所長。相続に関連する問題に幅広く対応しています。税理士や司法書士などの他士業と連携することでワンストップで問題解決にあたります。愛知県弁護士会所属(登録番号52907)。