生命保険金は、遺産(相続財産)ではなく、原則として遺産分割の対象にはなりません。生命保険金は、保険契約で定められた保険金受取人の固有の財産となります。
もっとも、生命保険金の金額等の諸事情によっては、例外的に、生命保険金が特別受益に準じて持ち戻される場合があります。
(回答:弁護士 大澤一郎)
生命保険金とは
生命保険金は、保険契約者が保険者に対して保険料の支払いを行い、特定の人が亡くなった場合に保険者が保険金受取人に対して一定金額を支払うことを約束する契約です。
生命保険金は、その金額が大きいことがあり、生命保険金請求権が相続財産に含まれるかどうかが問題となることがあります。
保険契約で受取人が特定されている場合
生命保険金は、遺産には含まれません。受取人と指定された人は、固有の権利として保険金請求権を取得します。
保険契約で相続人のうちの1人が受取人と指定されている場合でも、生命保険金は相続財産にはあたらず、受取人が生命保険金請求権を取得します。
保険契約で受取人が「相続人」となっている場合
生命保険金は、遺産ではなく、受取人である相続人が生命保険金請求権を取得します。
相続人が複数いる場合には、各相続人が均等の割合によって保険金を取得することになります(民法427条)(判例:最高裁第2小法廷平成6年7月18日判決)。
保険契約で受取人の指定がなされていない場合
受取人の指定がない場合であっても、通常、保険の約款で受取人が指定されていますので、保険約款で指定された受取人が生命保険金請求権を取得します。受取人に該当する者が複数いるときは、上記3と同様、各受取人が均等の割合で保険金を取得することになります。
相続放棄をした場合
生命保険金は、遺産には含まれません。そのため、相続放棄をした相続人であっても、保険金の受取人に指定されている場合には保険金を請求することができます。
特別受益、遺留分減殺との関係
生命保険金は、原則として、特別受益の持戻しや遺留分減殺請求の対象となりません。
しかし、保険金の額、保険金額の遺産総額に占める比率のほか、同居の有無、亡くなった方の介護等に対する貢献の度合いなど保険金受取人である相続人及び他の相続人と亡くなった方との関係、各相続人の生活実態等の諸事情を総合考慮して、相続人間に著しい不公平がある場合には、例外的に、特別受益に準じて、生命保険金が特別受益の払戻しの対象となる場合があります。(参考判例:最高裁第2小法廷平成16年10月29日決定)。
生命保険金を特別受益に準じて持ち戻すかどうかは、保険金額や、保険金額の遺産総額に占める割合を中心とした諸事情を考慮し、個別具体的に判断されることになります。
その他
生命保険金の他に、遺産(相続財)に含まれるかどうか争われやすいものとして、祭祀財産や香典、遺族年金、死亡退職金などが挙げられます。これらの財産も、いずれも、原則として遺産には含まれません。
(文責:弁護士 大澤一郎)