最終更新日:2026年7月14日
公正証書遺言の必要書類は、大きく次の4種類です。
- 遺言者本人の確認書類(印鑑登録証明書、運転免許証など)
- 遺言者との関係を証明する書類(戸籍謄本など)
- 財産を証明する書類(不動産の登記事項証明書、預貯金の通帳のコピーなど)
- 証人2名の情報をまとめたメモ
手続きは、大きく次の4つのステップで進みます。
- ① 遺言の内容を整理し、必要書類を集める
- ② 公証役場に連絡し、案文や資料を送って事前に打ち合わせをする
- ③ 作成当日、遺言者と証人2名が公証役場に行って手続きをする
- ④ 公正証書遺言が完成し、原本は公証役場で保管され、遺言者には正本と謄本が渡される
公証人という法律の専門家が関与するため、作成した遺言が無効になるリスクを大きく減らすことができ、相続が始まった後の手続きもスムーズに進められます。
公正証書遺言とは
公正証書遺言とは、遺言者が遺言の内容を公証人に口頭で伝え、公証人がその内容を書きとって作成する遺言です(民法969条)。
公証人とは、裁判官や検察官、弁護士などの法律実務経験者から、法務大臣によって任命された専門家です。公証人が直接作成に関わるため、書き方の不備で遺言が無効になるリスクや、あとから内容の解釈をめぐって起きるトラブルを大きく減らすことができます。遺言の中でも「もっとも確実な方式」といえます。
公正証書遺言の主なメリットは、次の4点です。
① 無効になるリスクが極めて低い
法律の専門家である公証人が作成するため、書き方の不備が起きにくいです。また、表現があいまいになっていないかなど、内容面についても確認してもらえます。
② 偽造・紛失の心配がない
原本が公証役場で保管されるため、なくしたり、書きかえられたりする心配がありません。
③ 検認が不要
自筆証書遺言(自分で書く遺言)を法務局以外の場所で保管していた場合は、相続が始まったあと、家庭裁判所での「検認」(けんにん)という確認手続きが必要です。公正証書遺言ではこの検認が必要ないため、遺言にしたがった相続手続きをすぐに進めることができます。
④ ご自身で文字を書くことができない(自書できない)方でも作成できる
病気や障害で自分の手で書くことができない方でも、口頭で内容を伝えることで遺言を残せます。
遺言書の種類
民法が定める遺言には「普通方式」と「特別方式」があります。普通方式に3種類、特別方式に4種類の合計7種類が定められています。
普通方式の遺言
普通方式の遺言とは、日常的に利用される遺言の方式で、次の3種類があります。
① 自筆証書遺言
遺言者が遺言書の全文・日付・氏名を自分の手で書き、押印して作成する方式です(民法968条)。
費用がかからず、自分一人で作成できる手軽さがあります。一方、全文を自分の手で書くなど、厳格な方式が求められるため、書き方に不備があると無効になるリスクがあります。
財産目録についてはパソコンでの作成ができる場合もありますので、作成する場合には、弁護士などの専門家に相談することが望ましいでしょう。
② 公正証書遺言
公証人が作成に関わる方式です。手間と費用はかかりますが、3つの方式の中でもっとも安全で確実な遺言といえます。
③ 秘密証書遺言
遺言の内容を秘密にしたまま、封をした遺言書を公証人や証人の前に提出し、「遺言書がある」ということだけを明らかにする方式です(民法970条)。
内容を秘密にでき、全文を自分で書く必要がないという利点があります。一方で、公証人が内容を確認しないため、書き方や内容に不備があっても直してもらう機会がありません。
また、遺言書そのものが遺族によって捨てられてしまうリスクもあります。実際の利用は少なく、あまり使われていない方式です。
特別方式の遺言
特別方式は、通常の方法で遺言を作成することが困難または不可能な特殊な状況において、簡易な手続きで遺言を認めるものです。「危急時遺言(ききゅうじいごん)」と「隔絶地遺言(かくぜつちいごん)」の2つに分かれ、それぞれさらに2種類があります。
① 危急時遺言
病気や事故などで命の危険があるときに認められる遺言です。次の2種類があります。
② 隔絶地遺言
遺言者が特定の場所に隔離されているため、通常の方法で遺言を残せない場合に認められる遺言です。次の2種類があります。
なお、特別方式の遺言は、遺言者が普通の方式で遺言できる状態に回復してから6か月以上生存した場合には、その効力を失います(民法983条)。あくまで緊急時の一時的な措置として位置づけられています。
自筆証書遺言と公正証書遺言の違い
自筆証書遺言と公正証書遺言の最も大きな違いは、「専門家が関与するかどうか」という点です。
自筆証書遺言は遺言者が一人で作成するため、費用がかからず手軽に作成できます。一方で、書き方の不備で無効になるリスクや、なくしたり書きかえられたりする危険があります。
一方、公正証書遺言は法律の専門家である公証人が関わって作成するため、書き方の不備が起きにくく、原本も公証役場で保管されます。
なお、自筆証書遺言を法務局で保管できる制度があります。この制度を使えば、自筆証書においても、紛失や書きかえのリスク、検認の手間はなくなります。
ただし、法務局が確認するのは書き方の形式だけです。遺言の内容が法律的に問題ないかまでは確認しません。この点が、公正証書遺言との大きな違いです。
3つの方式の主な違いをまとめると、次の通りです。
| 比較項目 | 自筆証書遺言 (自宅保管) |
自筆証書遺言 (法務局保管) |
公正証書遺言 |
|---|---|---|---|
| 作成者 | 遺言者本人 | 遺言者本人 | 公証人(遺言者が口授) |
| 証人 | 不要 | 不要 | 2名必要 |
| 費用 | 無料 | 3900円 | 公証人手数料(遺産額により変動) |
| 保管場所 | 自宅 | 法務局 | 公証役場 |
| 偽造・改ざんのリスク | あり | なし | なし |
| 遺言能力の確認 | なし | なし | あり(公証人が確認) |
| 方式不備の確認 | なし | あり(法務局職員が確認) | あり(公証人が確認) |
| 内容・文言の確認 | なし | なし | あり(公証人が確認) |
| 相続開始後の検認 | 必要 | 不要 | 不要 |
| 字が書けない場合 | 作成不可 | 作成不可 | 作成可能 |
公正証書遺言の大きな強みは、公証人が方式や文言の明確性を確認しながら作成に関与する点です。自筆証書遺言に比べて、方式不備や表現のあいまいさによるトラブルを減らしやすいといえます。
ただし、公証人は中立・公正な立場で手続きを進めるため、相続人間の争いを見越した遺留分(一定の相続人に最低限保障された遺産の取得分)対策や、具体的な財産分けの方針については、弁護士などに相談するのが適切です。
また、作成のときに公証人と証人が遺言者の意思能力(自分のしていることを理解する力)を確認します。そのため、後日「認知症だったので無効だ」などと争われにくい点も大きなメリットです。
手間と費用はかかりますが、残されたご家族の負担を減らし相続トラブルを防ぐための備えとして、その価値は十分にあるといえるでしょう。

公正証書遺言の必要書類
公証役場に提出する書類は、①遺言者本人の確認書類、②家族関係を証明する書類、③財産を証明する書類、④証人に関する情報の4カテゴリに分かれます。
なお、遺言の内容によっては、公証人からほかの書類の提出を求められることがあります。書類を集める前に公証役場に問い合わせて、必要書類を確認してから始めると効率的です。
① 遺言者本人の確認書類
本人確認のために必要な書類です。次のいずれかを用意してください。
- 印鑑登録証明書(発行から3か月以内のもの)
- 顔写真付きの身分証明書(運転免許証・マイナンバーカード・パスポートなど)
② 遺言者との関係を証明する書類
相続人や受遺者(遺言で財産を受け取る人)との関係を明らかにするために必要な書類です。財産を残す相手によって必要な書類が異なります。
- 相続人に相続させる場合
遺言者と相続人の続柄がわかる戸籍謄本(発行から3か月以内)。なお、すでに遺言者の戸籍謄本に相続人の名前が記載されている場合は、その1通で足りることがあります。 - 相続人以外の人(第三者)に遺贈する場合
相続人以外の人に財産を残す場合、受遺者の住民票が必要です(法人の場合は資格証明書)。
③ 財産を証明する書類
遺言書に財産を正確に記載するために必要な書類です。不動産、預貯金・有価証券など、財産の種類ごとに用意する書類が変わります。
- 不動産
登記事項証明書(法務局で取得)+固定資産税評価証明書または課税明細書 - 預貯金・有価証券
銀行名・口座番号がわかる通帳のコピーや残高証明書、証券会社の口座情報
④ 証人に関する情報
証人2名の情報をまとめたメモも必要です。次の項目を記載しておきましょう。
- 氏名
- 住所
- 生年月日
- 職業
公正証書遺言の手続きの流れ
公正証書遺言の作成は、大きく遺言内容の検討と書類の収集、公証役場への連絡と事前確認、作成当日の手続き、原本の保管と正本・謄本の交付の4段階で進みます。
ステップ1:遺言内容の検討と書類の収集
まず、「誰に」「どの財産を」「どのような条件で」残すかを整理します。不動産、預貯金、有価証券など、財産の種類ごとに内容を書き出し、それと並行して必要書類を集めていきましょう。
この段階で弁護士などの専門家に文案の作成を依頼すれば、法律的に問題のない内容に整えてもらえます。また、公証役場とのやり取りもスムーズになります。
ステップ2:公証役場への連絡と事前確認
公証役場に連絡し、遺言の案文や集めた資料を送ります。公証人が内容を確認したうえで修正・調整を行い、作成当日の日時を決めます。
この打ち合わせには一定の時間がかかります。余裕をもったスケジュールで動くことが大切です。
ステップ3:作成当日の手続き
遺言者本人が証人2名とともに公証役場に出向き、次の順序で手続きが進みます。
- ① 遺言者が公証人に遺言の内容を口頭などで伝える
- ② 公証人がその内容を書きとり、遺言者と証人に読み聞かせる、または見せる
- ③ 遺言者と証人が「書かれた内容に誤りがない」と確認したうえで、それぞれ署名・押印する
- ④ 公証人が「法律で決められた方式どおりに作成した」と書き加え、署名・押印して完成する
手続き自体は、1時間ほどで終わることが多いです。
ステップ4:原本の保管と正本・謄本の交付
作成された公正証書遺言は、「原本」「正本」「謄本」の3通が作られます。
原本は公証役場で保管され、遺言者には正本と謄本が渡されます。原本は法律にもとづいて公証役場で大切に保管されるので、自宅で管理する必要はありません。

公正証書遺言の作成費用
公正証書遺言を作成するには、公証役場に支払う手数料が必要です。費用は「遺言の対象となる財産の金額」に応じて、公証人手数料令という政令で定められています。
| 目的の価額 | 手数料 |
|---|---|
| 50万円以下 | 3000円 |
| 50万円超~100万円以下 | 5000円 |
| 100万円超〜200万円以下 | 7000円 |
| 200万円超〜500万円以下 | 1万3000円 |
| 500万円超〜1000万円以下 | 2万円 |
| 1000万円超〜3000万円以下 | 2万6000円 |
| 3000万円超〜5000万円以下 | 3万3000円 |
| 5000万円超〜1億円以下 | 4万9000円 |
| 1億円超〜3億円以下 | 4万9000円+超過5000万円ごとに1万5000円を加算 |
| 3億円超〜10億円以下 | 10万9000円+超過5000万円ごとに1万3000円を加算 |
| 10億円超 | 29万1000円+超過5000万円ごとに9000円を加算 |
費用計算の注意点
手数料は、遺産の合計金額で1回だけ計算するのではありません。相続人や受遺者(遺言で財産を受け取る人)ごとに、もらう財産の金額をそれぞれ計算し、その手数料を合計するしくみです。
【計算例】
遺産1億7000万円を「妻に1億円、長男に4000万円、次男に3000万円」相続させる場合
| 相続人 | 財産額 | 手数料 |
|---|---|---|
| 妻 | 1億円 | 4万9000円 |
| 長男 | 4000万円 | 3万3000円 |
| 次男 | 3000万円 | 2万6000円 |
| 合計 | 1億7000万円 | 10万8000円 |
加算される費用
基本手数料に加え、次の費用が別途かかる場合があります。
- 遺言加算
財産の総額が1億円以下の場合、手数料に1万3000円が加算されます。 - 正本・謄本の交付手数料
電子データで発行する場合は1通につき2500円、書面で発行する場合は1枚につき300円が必要です。 - 原本の用紙代
原本を書面で印刷した場合、3枚を超える分について、1枚あたり300円が加算されます。 - 出張費用
公証人が自宅・病院・施設に出張する場合、基本手数料が50%加算されることがあるほか、日当(1日2万円、4時間以内は1万円)と交通費もかかります。 - 証人紹介料
公証役場で証人を紹介してもらう場合、1名あたり1万円程度の費用が発生します。
なお、公証役場への相談は無料です。費用のくわしい内容については、遺言書を作成する公証役場にお問い合わせください。

よくあるご質問
ここでは、公正証書遺言についてよくいただくご質問にお答えします。
証人を頼める人がいない場合どうすればよい?
証人を頼める人が見つからないときは、公証役場に依頼すれば、有料(1名につき1万円ほど)で証人を紹介してもらえます。事前に公証役場に相談してみましょう。
公証人は遺言内容のアドバイスをしてくれる?
公証人は遺言の内容についてある程度のアドバイスを行い、きちんとした遺言が作成できるようサポートしてくれます。また、作成の過程で、遺言者の遺言能力(判断能力)も確認します。
ただし、公証人はあくまでも中立・公正な立場で手続きを進めます。「誰に何を相続させるべきか」「遺留分をどう考えるか」といった、遺言の内容そのものの詳しい相談は、弁護士など法律の専門家に行うのが適切です。
認知症の兆候があっても公正証書遺言を作成できる?
認知症の診断を受けているからといって、必ずしも公正証書遺言が作成できなくなるわけではありません。認知症であっても、公正証書遺言を作成するだけの意思能力(自分のしていることを理解する力)がある場合には、公正証書遺言を作成できます。
意思能力があるかどうかが心配な場合や、後日争われる可能性がある場合は、次の対策をとっておくと有効です。
- 医師による診断書を取得し、遺言を作成するのに十分な意思能力があることを書面で確認しておく
- 本人との会話をビデオ撮影しておく(日付を本人に口頭で述べてもらうと改ざん防止に有効)
- 本人の状況を日記などに継続的に記録しておく
心配な場合は早めに弁護士にご相談ください。
入院中で公証役場に行けない場合、どうすればよい?
公証人は、本人が高齢や疾病により外出できないと認められる場合、自宅や病院、施設などへ出張して遺言を作成してくれます。
ただし、公証人が出張できるのは、その公証人が所属する法務局・地方法務局の管轄区域内に限られます。たとえば、入院先が千葉県内であれば、千葉県内の公証役場に相談するのが基本です。
入院先や居場所を管轄する公証役場に連絡し、出張に対応できるかどうかを確認してください。
なお、出張の場合は基本手数料が50%加算されることがあるほか、日当・交通費が追加でかかります。
一度作った公正証書遺言は、後日内容を変更できる?
遺言者はいつでも自由に遺言の内容を変更・撤回することができます(民法1022条)。変更の方法としては、新たに公正証書遺言を作成する方法、変更箇所について自筆証書遺言を作成する方法などがあります。
遺言が複数ある場合は後に作成された遺言の内容が優先されます(民法1023条)。ただし、遺言書全体のつじつまを合わせるためには、新しく公正証書遺言として全体を書き直すほうが確実です。
公正証書遺言の有無は検索できる?
はい、できます。1989年以降に作成された公正証書遺言については、日本公証人連合会が全国の情報をまとめて管理しています。全国どの公証役場からでも、遺言書があるかどうか、どこに保管されているかを検索できます。
遺言検索の申出は無料です。ただし、遺言書の有無を証明する書類の発行や、謄本の交付を受ける際には別途手数料がかかります。
ただし、秘密保持のため、検索を申し出ることができるのは相続人などの利害関係人に限られます(遺言者の生きている間は、遺言者本人のみ申し出ができます)。申出の際には次の書類が必要です。
- 遺言者が死亡した事実を証明する書類(除籍謄本など)
- 遺言者の相続人であることを証明する戸籍謄本
- 申出人の本人確認書類(顔写真付き公的身分証明書、または実印と印鑑登録証明書)
遺言書が見つかった場合は、保管先の公証役場で正本・謄本の交付を受けることができます。
まとめ:悩んだら弁護士に相談
公正証書遺言は、法律の専門家である公証人が関わる確実性の高い遺言の方式です。
書き方の形式だけでなく、内容まで確認してもらえること、作成のときに遺言能力を公証人と証人が確認するため後日争われにくいことなど、自筆証書遺言にはないメリットがあります。
一方で、遺言の原案の作成、財産の整理・書類集め、証人の手配など、準備にはそれなりの手間がかかります。こうした準備を一人で進めることに不安を感じる方も多いと思います。
ご自身の希望どおりに遺言の内容を整理し、将来の相続トラブルを防ぎたい方は、弁護士への相談をおすすめします。弁護士に依頼すれば、文案の作成、必要書類の収集、公証役場との調整、証人の手配まで、まとめてサポートを受けられます。
よつば総合法律事務所では、相続問題のご相談をお受けしています。初回相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。




