最終更新日:2026年9月3日
相続放棄の流れは、①財産と借金の調査、②期限の確認、③必要書類の準備、④家庭裁判所への提出、⑤照会書への回答、⑥受理通知書の到着という6つのステップで進みます。
自分が相続人になったと知ってから3か月以内に手続きをすること、亡くなった方の財産に手を付けないこと、自分が放棄すると次の順位の親族に相続権が移ることの3つについて、特に注意が必要です。
相続放棄とは
相続放棄とは、亡くなった方(被相続人)の財産や借金を、はじめからまったく引き継がないと家庭裁判所に申し出る手続きです。
民法では、相続放棄をした人は「はじめから相続人ではなかった」と扱われます。預貯金や不動産といったプラスの財産を受け取れなくなる一方で、借金や保証債務といったマイナスの財産も背負わずに済みます。
ここで気をつけたいのが、相続放棄と混同されやすい制度の存在です。
① 遺産分割協議での事実上の相続放棄
たとえば、相続人同士で集まり「自分は相続財産を受け継がない」と決めることを「事実上の相続放棄」と呼ぶことがあります。
しかし、これはあくまで親族間の取り決めです。家庭裁判所で正式に相続放棄をしたわけではないため、亡くなった方の債権者に対しては効力がありません。
そのため、借金の請求書が届いた場合に、「親族間では財産をもらわないことにした」と説明しても、支払いを拒めないのが原則です。
② 遺留分の放棄
生前に遺留分(一定の相続人に保障された最低限の取り分)を手放す「遺留分の放棄」も、まったく別の制度です。遺留分を放棄しても相続人でなくなるわけではありません。
そのため、亡くなった方に借金があれば、支払い義務を引き継ぐのが原則です。「遺留分を放棄したから、借金も引き継がない」と思い込まないよう注意しましょう。
亡くなった方の借金を引き継がないためには、家庭裁判所で正式に相続放棄をする必要があります。
相続放棄のメリット
借金を相続しなくて済む
相続放棄の最大のメリットは、亡くなった方に多額の借金があっても、その借金を引き継がずに済むことです。
預貯金や不動産などの財産を受け取れない代わりに、借金や保証債務などの負担も背負わずに済みます。
不要な不動産を抱えずに済む
相続放棄をすれば、不要な不動産を抱えずに済むのもメリットの1つです。
資産価値のない山林や、買い手のつかない地方の実家を相続すると、毎年の固定資産税や管理費、近隣からの苦情対応といった負担が重くのしかかります。相続放棄を選べば、こうした重荷からも解放されます。
相続人間の争いに巻き込まれにくい
相続放棄をすれば、相続人同士で遺産の分け方を話し合う「遺産分割協議」に参加する必要もなくなります。
親族関係がぎくしゃくしている場合や、争いに巻き込まれたくない場合には、大きな安心材料となるはずです。
相続放棄のデメリット
一方で、相続放棄にはいくつかのデメリットもあります。
プラスの財産も手放す
第一に、借金だけを放棄して「自宅や預金は受け取る」という都合のよい選び方はできません。プラスの財産もすべてまとめて手放すことになります。
先祖代々受け継がれてきた土地や思い出の品も受け取れなくなる可能性があるため、放棄する前に財産の内容をよく確認しておくことが大切です。
原則として撤回できない
第二に、いったん家庭裁判所で受理された相続放棄は、原則として撤回できません。あとから「もっと財産があるとわかったので、やはり相続したい」と考えても、自由に取り消すことはできません。
例外的に、詐欺や強迫によって放棄させられた場合や、重大な勘違いがあった場合には取り消しが認められることもありますが、立証のハードルは高く、実際に取り消しが認められるケースは限られます。
相続権が次の順位に移る
第三に、自分が相続放棄をすると、相続権が次の順位の親族へと移り、借金もその親族が引き継ぐことになります。
たとえば、亡くなった方の子ども全員が相続放棄をすると、相続権は亡くなった方の親に移ります。親もすでに亡くなっていれば、兄弟姉妹へと順に移っていきます。
あらかじめ事情を伝えていないと、ある日突然、疎遠な親族のもとに督促状が届くこともあるのです。
代襲相続は発生しない
最後に、親の相続について相続放棄をしても、自分の子どもが代わりに相続する「代襲相続」は発生しません。
たとえば、父親が亡くなった場合に、自分が相続放棄をしたとしても、自分の子どもが代わりに祖父の財産を相続できるわけではありません。
そのため、「自分は親の財産を相続しなくてもよいが、自分の子どもには祖父母の財産を受け継がせたい」と考えている場合は注意が必要です。

相続放棄の手続き
相続放棄は、口頭で「財産を相続しません」と伝えるだけでは成立しません。家庭裁判所に正式な書類を提出し、認めてもらう必要があります。手続きの流れと必要書類を順に見ていきましょう。
手続きの流れ
相続放棄の手続きは、おおむね次のステップで進みます。
ステップ1:財産と借金の調査
最初に、亡くなった方にどのような財産と借金があるかを調べます。通帳や不動産の権利証、ローンの契約書、督促状、エンディングノートなどをひととおり確認しましょう。
借金の有無は、信用情報機関に問い合わせて開示請求することもできます。
不動産や自動車、美術品といった財産については、簡単な評価を行ったうえで、プラスとマイナスのどちらが多いかを冷静に見極めましょう。
ステップ2:期限の確認
相続放棄は、自分が相続人になったと知ったときから3か月以内に申し立てなければなりません。この期間を「熟慮期間」と呼びます。被相続人が亡くなったことを知った日から逆算して、自分にとっての期限が具体的に何月何日になるのかを確認しておきましょう。
期限までの残り日数を把握できれば、戸籍集めや財産調査にどれだけ時間をかけられるかが見えてきます。
ステップ3:必要書類の準備
「相続放棄申述書」と、戸籍謄本などの書類を集めます。相続放棄申述書とは、家庭裁判所に対して「相続放棄をしたい」と申し出るための書類です。裁判所のWebサイトから書式をダウンロードできます。
戸籍の取り寄せは遠方の役所に郵送で依頼することも多く、思いのほか時間がかかります。早めに動き始めることが肝心です。
ステップ4:家庭裁判所への提出
必要書類がそろったら、亡くなった方が最後に住んでいた地域を管轄する家庭裁判所に提出します。相続放棄では、家庭裁判所への正式な申し出を「申述」といいます。また、相続放棄を申し出る人のことを「申述人」と呼びます。
書類は、家庭裁判所の窓口に持参するか、郵送で提出します。費用は、申述人1人につき収入印紙800円分です。そのほか、家庭裁判所との連絡に使う郵便切手代として、数百円程度が必要になります。
ステップ5:照会書への回答
提出から1〜2週間ほどで、家庭裁判所から「照会書」という質問状が届くことがあります。
本当に自分の意思で放棄するのか、3か月の期限を過ぎていないか、財産に手を付けていないかといった点を確認するためのもので、これに正直に回答して返送することが必要です。
回答内容によっては相続放棄が認められなくなることもあるため、書き方に不安があれば返送前に弁護士に相談しましょう。
ステップ6:受理通知書の到着
申述から早ければ3週間、長いと2か月ほどで、家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が届きます。これが手元に届いた時点で、相続放棄は完了です。
必要書類
相続放棄に必要な書類は、誰が相続放棄をするときも共通して必要なものと、放棄する人と亡くなった方との関係によって追加で必要になるものに分かれます。
【全員に共通する書類】
- 相続放棄申述書(裁判所のWebサイトからダウンロード可能)
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 申述人(放棄する人)の戸籍謄本
- 収入印紙800円分
- 連絡用の郵便切手
亡くなった方との関係性によって追加で必要になる書類
| 放棄する人 | 追加で必要な戸籍謄本 |
|---|---|
| 配偶者・子 | 被相続人の死亡記載のある戸籍謄本 |
| 孫(代襲相続人) |
|
| 親・祖父母 |
|
| 兄弟姉妹・甥姪 |
|
相続順位が後ろになるほど、集める書類は増えていきます。兄弟姉妹が放棄するケースでは、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍をたどる必要があり、これだけで1か月以上かかることも珍しくありません。
相続放棄申述書には、認印で押印すれば足り、実印である必要はありません。「職業」や「申述の理由」といった記入欄もありますが、難しいことを書く必要はなく、戸籍どおりに正確に記入し、ありのままを素直に答えれば十分です。

相続放棄をしても受け取れる財産
相続放棄をすると原則として亡くなった方の財産は引き継げませんが、法律上「相続財産」に当たらないものは、放棄後でも受け取れます。
代表的なものは次の通りです。
① 生命保険金(受取人が指定されているもの)
生命保険金は、誰が受取人になっているかによって扱いが変わります。
受取人として配偶者や子どもの名前が指定されている場合、その生命保険金は、亡くなった方の相続財産ではなく、受取人固有の財産として扱われます。そのため、相続放棄をしても受け取れます。
一方で、受取人が「被相続人」となっている契約や、受取人欄が空欄の契約では、保険金が相続財産として扱われる可能性があります。この場合、保険金を受け取ると相続放棄ができなくなるおそれがあるため、保険証券や約款で受取人の記載やルールを確認しておきましょう。
② 死亡退職金(受取人が指定されているもの)
会社の規定で受取人が定められている死亡退職金も、受取人固有の財産です。相続放棄をしても受け取れます。
③ 遺族年金・未支給年金
遺族年金や未支給年金は、遺族に支給されるものであり、相続財産には含まれません。そのため、相続放棄をしていても受給できます。
④ 香典・弔慰金
香典は亡くなった方ではなく喪主に贈られたものと考えられているため、相続財産には含まれません。受け取って葬儀費用に充てることができます。
⑤ 葬祭費・埋葬料
国民健康保険や健康保険組合、後期高齢者医療制度から支給される葬祭費や埋葬料は、申請した家族に支払われる固有の給付です。相続放棄をしていても受け取れます。
⑥ お墓・仏壇などの祭祀財産
お墓や仏壇、位牌、家系図といったものは「祭祀財産(さいしざいさん)」と呼ばれ、相続財産とは別に扱われます。相続放棄をしていても、引き継いで供養を続けることができます。
ただし、事情によっては判断が微妙な場合もありますので、気になる場合には弁護士などの専門家に相談し、本当に受け取ってもよいか慎重に判断しましょう。
相続放棄の注意点
相続放棄を進めるにあたっては、いくつか押さえておきたい注意点があります。ここでは特に大切な4つのポイントを順に見ていきましょう。
相続財産と負債の調査を慎重に行う
相続放棄するかどうかを正しく判断するためには、相続財産の全体像を把握する必要があります。
預貯金や不動産、株式、貸付金などのプラスの財産と、借入金やローン、未払いの税金、保証債務などのマイナスの財産を、できるだけ漏れなく洗い出しましょう。
特に保証債務は契約書を見ない限り存在に気づきにくいため、亡くなった方の自宅にある契約書類や、届いている督促状、郵便物まで丁寧に確認することが大切です。
調査した内容をもとに、プラスの財産とマイナスの財産を比べたうえで、相続放棄をするかどうかを判断しましょう。
3か月という期間は意外と短く、財産調査だけで時間が過ぎてしまうこともあります。判断に迷ったら、早い段階で弁護士に相談するのが安全です。
他の相続人への影響を考慮する
相続放棄をすると、自分の相続権はなくなります。その結果、他の相続人や、次の順位の親族に影響が出ることがあります。
まず、同じ順位の相続人がほかにもいる場合、自分が相続放棄をすると、他の相続人の相続分が増えることがあります。
たとえば、亡くなった父に配偶者はおらず、相続人が子ども2人だけだったとします。この場合、そのうち1人だけが相続放棄をすると、残りの1人が父の財産をすべて引き継ぐことになります。父に借金があれば、その借金も残りの1人が引き継ぐことになるため注意が必要です。
一方で、同じ順位の相続人が全員相続放棄をすると、次の順位の親族に相続権が移ります。たとえば、先ほどと同じ例で、父の子ども全員が相続放棄をすると、相続権は父の親に移ります。親も亡くなっていれば、父の兄弟姉妹に移ります。
このように、相続放棄は自分だけの問題ではなく、他の親族にも影響します。トラブルを避けるためにも、相続放棄をする前に、影響を受ける親族へひと言連絡しておくとよいでしょう。
財産の処分をすると相続放棄できない
相続放棄をする前や手続き中に、亡くなった方の財産を処分すると、相続を受け入れたものとみなされ、相続放棄ができなくなります。これを単純承認といいます。
ここでいう「処分」とは、亡くなった方の財産を売る、使う、捨てる、名義を変えるなどして、財産の状態や権利関係を変える行為をいいます。たとえば、預金を引き出して自分の生活費に充てる、不動産を自分の名義に変更する、車を売却するといった行為が「処分」にあたります。
特に、遺品整理は要注意です。値段のつくような家財道具を業者に売ったり、家電を自分の家に運び込んだりすると、財産の処分と判断されるおそれがあります。
形見分け程度の遺品を持ち帰る程度であれば問題ないとされてはいますが、線引きは微妙です。判断に迷うときは、手を付ける前に弁護士に相談しましょう。
3か月を過ぎると相続放棄できない
相続放棄は、自分が相続人になったことを知ったときから3か月以内に申し立てなければなりません。この期間を過ぎると、原則として相続放棄はできず、プラスの財産もマイナスの財産もそのまま引き継ぐことになります。
もっとも、3か月を過ぎた後でも、例外的に相続放棄が認められることがあります。たとえば、「亡くなった方に借金があるとは知らず、調べる手がかりもなかった」など特別な事情がある場合です。被相続人と長年疎遠で、死後しばらく経って債権者からの通知で借金の存在を初めて知ったケースなどが考えられます。
ただし、このような場合は「なぜ3か月以内に手続きできなかったのか」を家庭裁判所に対して書面で詳しく説明する必要があります。事情の説明や資料の出し方によって結果が変わることもあるため、まずは弁護士に相談しましょう。

よくあるご質問
ここからは、相続放棄についてよく寄せられる質問にお答えします。
故人に借金があるか調査する方法は?
故人に借金があるかどうかは、郵便物、信用情報機関への開示請求、不動産の登記簿などを確認して調べます。
まず、自宅にある郵便物を確認しましょう。督促状やクレジットカードの請求書、ローン会社からの通知などがあれば、借金の手がかりになります。
次に、信用情報機関に「信用情報開示請求」を行う方法があります。日本には主に3つの信用情報機関(CIC、JICC、一般社団法人全国銀行協会)があり、銀行や消費者金融、クレジットカード会社などからの借入情報を確認できます。相続人であれば、亡くなった方の信用情報について開示請求できる場合があります。
また、故人が誰かの連帯保証人になっていた可能性もあります。不動産の登記簿に抵当権や根抵当権がついていないかも確認しておくと安心です。
生命保険金を受け取っても相続放棄できる?
生命保険金は、受取人が誰になっているかによって扱いが変わります。
保険証券の受取人欄に、配偶者や子どもなど特定の人の名前が書かれている場合、その保険金は受取人自身の財産として扱われます。そのため、相続放棄をしても受け取ることができます。
一方、受取人が「被相続人本人」になっている場合は注意が必要です。この場合、保険金は亡くなった方の相続財産に含まれるため、受け取ると相続放棄ができなくなる可能性があります。
迷うときは、保険証券の受取人欄を確認し、弁護士や保険会社に相談しましょう。
故人の入院費を遺産から払っても相続放棄できる?
故人の入院費を遺産から払うと、相続放棄ができなくなる可能性が高いです。
入院費の支払いであっても、亡くなった方の現金や預貯金などを使うと、「遺産を使った」と判断される可能性があります。その場合、相続財産を処分したとして単純承認にあたり、相続放棄ができなくなるおそれがあります。
そもそも、相続放棄をすれば、亡くなった方の債務を引き継ぐ必要はありません。そのため、相続放棄をした人は、原則として入院費を支払う義務も負いません。
入院費を支払うのは、財産を相続した人、つまり相続放棄をしなかった人です。誰も相続しない場合は、家庭裁判所が選任する相続財産清算人が、遺産の中から支払うことになります。
ただし、相続放棄をしても、自分自身が入院費を支払わなければならないケースがあります。これは、亡くなった方から引き継ぐ債務ではなく、相続人自身の固有の債務にあたるためです。
代表的なのは、次の2つです。
1つは、亡くなった方が入院する際に、病院から求められて身元保証人になっていた場合です。身元保証人としての支払義務は、亡くなった方の債務ではなく、身元保証人自身の債務です。そのため、相続放棄をしても亡くなった方の相続財産以外から支払う必要があります。
もう1つは、亡くなった方の配偶者である場合です。民法では、夫婦が日常生活のために負った債務、いわゆる日常家事債務について、もう一方の配偶者も連帯して支払う義務を負うと定められています。入院費は日常家事債務にあたる可能性があるため、配偶者は相続放棄の有無にかかわらず支払義務を負う可能性があります。
なお、個室料金や高額の保険外診療費など、夫婦の収入や資産から見て明らかに過大な部分は、日常家事債務の範囲を超えるとして支払を拒否できる可能性もあります。
判断に迷うときは、入院費を支払う前に、弁護士に相談することをおすすめします。
葬儀費用を遺産から払っても相続放棄できる?
常識的な範囲の葬儀費用であれば、遺産から支払っても相続放棄できる可能性はあります。
相続放棄をする前に遺産を使うと、原則として相続財産の処分にあたり、単純承認とみなされるおそれがあります。
もっとも、葬儀は、亡くなった方を送るために、社会的慣習として行われるものです。亡くなった直後に必要となる支出であり、遺族として対応を避けにくいことから、常識的な範囲の葬儀費用であれば、相続財産の処分にはあたらないと判断されることもありえます。
ただし、どのような葬儀費用でも認められるわけではありません。亡くなった方の生前の生活水準や遺産の額と比べて明らかに豪華すぎる葬儀は、相続財産の処分とみなされ、単純承認にあたるおそれがあります。その結果、相続放棄ができなくなる可能性があります。
悩んだら、慎重に判断することをおすすめします。
公共料金の名義変更・解約・支払いをしても相続放棄できる?
公共料金については、未払い分の支払いと、名義変更・解約手続きとで扱いが異なります。
公共料金の未払い分を亡くなった方の遺産から支払うと、相続財産を処分したとして単純承認とみなされ、相続放棄ができなくなる可能性があります。一方、遺産ではなく自分の財産を公共料金の支払いに充てた場合には、相続放棄をすることができます。
また、公共料金の名義変更や解約手続きを行っても、相続放棄できる可能性はあります。名義変更や解約手続きは、亡くなった方の預金を使ったり、財産を売ったりする行為ではないため、相続財産を処分したことにはならないと考えられるからです。
なお、相続放棄をしても、亡くなった方の配偶者は、未払いの公共料金を支払わなければならない場合があります。電気・ガス・水道といった生活に欠かせない料金は、夫婦が日常生活のために負った債務、つまり日常家事債務にあたると考えられるためです。
日常家事債務は、夫婦が連帯して支払う義務を負うと民法で定められています。そのため、配偶者は相続放棄をしても、相続とは別に、配偶者自身の支払義務として未払いの公共料金を請求される可能性があります。
悩んだら、慎重に判断することをおすすめします。
故人の携帯電話代金を遺産から払っても相続放棄できる?
携帯電話の未払い料金も、亡くなった方の遺産から支払うと、相続財産を処分したとして単純承認とみなされ、相続放棄ができなくなる可能性があります。
一方、遺産ではなく自分の財産を故人の携帯電話の支払いに充てた場合には、相続放棄をすることができます。
故人が契約していた賃貸物件の遺品の片づけをしても相続放棄できる?
故人が契約していた賃貸物件の遺品を片づけても、相続放棄できる場合はあります。ポイントは、片づける遺品に経済的な価値があるかどうかです。
写真や衣類、思い出の品など、経済的な価値がほとんどないものを形見分けとして持ち帰る程度であれば、相続放棄できる可能性が高いと考えられます。
一方で、価値のある家財道具を売却したり、自分の家に運び込んだりすると、相続財産を処分したとみなされるおそれがあります。その場合、単純承認にあたり、相続放棄ができなくなる可能性があるため注意が必要です。
一部の借金だけを放棄して、自宅だけを相続できる?
一部の借金だけを放棄して、自宅だけを相続することはできません。
相続放棄は、亡くなった方の財産や借金など、すべての権利と義務をまとめて放棄する手続きです。そのため、「自宅は相続したいが、借金は引き継ぎたくない」といった選び方はできません。
自宅を残したい場合は、「限定承認」という別の手続きを検討することになります。限定承認とは、プラスの財産の範囲内で、借金などのマイナスの財産を引き継ぐ手続きです。
限定承認を利用すれば、自宅を残せる可能性があります。ただし、相続人全員で申し立てる必要があり、手続きも複雑です。また、税務上の取り扱いも特殊なため、利用する前に弁護士や税理士に相談しましょう。
相続放棄しても車の廃車手続きや処分はできる?
原則として、相続放棄をした後は、亡くなった方の車を廃車にしたり、売却したり、名義変更したりすることはできません。
車の売却や廃車、名義変更などは、亡くなった方の相続財産を処分する行為にあたる可能性があります。相続放棄をした後にこのような行為をすると、相続放棄の効力を争われるおそれがあるため注意が必要です。
また、被相続人名義の車にそのまま乗り続ける行為も、相続財産を利用していると判断される可能性があります。相続放棄をした後は、車を使い続けることも避けたほうが安全です。
もっとも、ローンを組んで購入した車では、車検証の「所有者の氏名又は名称」欄が、亡くなった方ではなく、ディーラーやクレジット会社になっていることがあります。この場合、その車は亡くなった方の相続財産ではないという判断になることもあります。そのため、相続放棄をした後でも、所有者であるローン会社やディーラーに連絡し、引き取りなどの対応を相談してみる方法もあります。
相続放棄しても建物の管理義務は残る?
相続放棄をしても、亡くなった方が所有していた建物について、管理義務が残ることがあります。
具体的には、相続放棄をした人がその建物を「現に占有している」、つまり実際に使っていたり、自分の管理下に置いていたりする場合に限り、次の相続人や相続財産清算人に引き渡すまで、管理義務を負うとされています。
たとえば、相続放棄をした人がその家に住んでいる場合や、日常的に出入りして管理している場合は、建物を放置せず、自分の財産と同じように注意して管理する必要があります。
一方で、その家に住んだことがなく、鍵も預かっておらず、管理にも関わっていないような場合は、原則として管理義務を負わないと考えられます。
お墓や仏壇は相続放棄するとどうなる?
お墓や仏壇は「祭祀財産」と呼ばれ、預貯金や不動産などの相続財産とは別に扱われます。そのため、相続放棄をしていても、お墓や仏壇を引き継ぎ、供養を続けることは可能です。
お墓や仏壇を引き継ぐ人は「祭祀承継者」と呼ばれます。祭祀承継者は、亡くなった方の指定や家族の慣習などによって決まります。相続放棄をした人であっても、祭祀承継者になることがあります。
ただし、骨董的価値の高い仏壇や仏具などを高額で売却するような場合は注意が必要です。通常の供養や管理の範囲を超える行為と判断されると、相続放棄との関係で問題になる可能性があります。
相続放棄の期間を伸ばす方法はある?
相続放棄の期間は、家庭裁判所に申立てをすることで伸ばせる場合があります。
相続放棄は、原則として自分が相続人になったと知ったときから3か月以内に行う必要があります。ただし、この期間内に相続放棄をするか判断するのが難しい場合は、家庭裁判所に「期間伸長の申立て」ができます。
たとえば、財産調査に時間がかかっている、遠方で戸籍集めが進まない、他の相続人と連絡が取れないといった事情がある場合は、期間伸長が認められる可能性があります。
延長される期間はケースによって異なりますが、1か月から3か月程度となることが一般的です。
ただし、期間伸長の申立ても、原則としてもとの3か月の期限内に行う必要があります。期限が近づいてから慌てないよう、相続放棄をするか迷っている場合は、早めに準備を進めましょう。
相続人となりえる人全員が相続放棄したらどうなる?
相続人となりえる人が全員相続放棄をすると、相続人がいない状態になります。そのままでは、亡くなった方の財産や借金を整理する人がいないため、債権者などの利害関係人や検察官の申立てにより、家庭裁判所が「相続財産清算人」を選任します。
相続財産清算人は、亡くなった方の財産を調査・管理します。そのうえで、必要に応じて財産を売却し、債権者への支払いなどを行って、相続財産を整理します。
債権者への支払いなどを終えても財産が残った場合、亡くなった方と特別に深い関係があった人に財産が分けられることもあります。それでも残った財産は、最終的に国のものになります。
相続放棄後にプラスの財産が見つかったら、相続放棄を取り消せる?
相続放棄後にプラスの財産が見つかったとしても、原則として、いったん受理された相続放棄を取り消すことはできません。
例外的に、相続放棄の取り消しが認められるケースもあります。たとえば、誰かにだまされて相続放棄をした場合、脅されて相続放棄をした場合、重大な勘違いがあった場合などです。
しかし、これらの事情を裁判所に立証するのは簡単ではありません。後悔しないためにも、相続放棄をする前に十分な財産調査をしておくことが大切です。
未成年者が相続放棄するには?
未成年者は、自分1人で相続放棄をすることはできません。親などの法定代理人が、未成年者の代わりに手続きを行います。
ただし、親自身も相続人であり、親と子どもの利害が対立する場合は注意が必要です。たとえば、親は相続する一方で、子どもだけが相続放棄をするようなケースでは、親が子どもの代理人として手続きを進めることはできません。この場合は、家庭裁判所に「特別代理人」を選んでもらい、その人が子どもの代わりに手続きを行います。
なお、相続放棄の3か月の期限は、「法定代理人が、その未成年者のために相続が始まったことを知ったとき」から数えます。
相続放棄したことを証明するには?
相続放棄が受理されると、家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が届きます。これは、相続放棄の申述が受理されたことを知らせる書類で、通常はこの通知書で相続放棄をしたことを示せます。
ただし、銀行や法務局、債権者などから「通知書ではなく、証明書を提出してください」と求められることもあります。その場合は、家庭裁判所に「相続放棄申述受理証明書」を申請しましょう。
相続放棄申述受理証明書は、相続放棄が受理されたことを公的に証明する書類です。発行には、1通150円分の収入印紙が必要です。
相続放棄は生前にできる?
相続放棄は、生前にはできません。
相続放棄は、被相続人が亡くなったあとに、相続人が家庭裁判所へ申し立てて行う手続きです。そのため、親や配偶者が生きているうちに、将来の相続についてあらかじめ相続放棄をしておくことはできません。
相続放棄しているかどうか調査できる?
他の相続人が相続放棄をしたかどうかは、利害関係のある人であれば調べられます。
たとえば、自身が相続人の1人である場合や、亡くなった方にお金を貸していた債権者などは、家庭裁判所に「相続放棄申述の有無についての照会」という手続きを申し立てることで、相続放棄がされているかを確認できます。
まとめ:悩んだら弁護士に相談
相続放棄は、多額の借金から自分や家族を守るための大切な手続きです。ただし、3か月という短い期限、財産の処分による単純承認のリスク、他の親族への影響など、注意すべき点がいくつもあります。
判断を1つ誤ると、本来なら放棄できたはずの借金を背負うことになりかねません。逆に、放棄する必要のないケースで放棄してしまい、本来受け取れた財産を失う可能性もあります。
「亡くなった親に借金があるかもしれない」
「もう3か月が過ぎてしまったかもしれない」
「ほかの親族にどう伝えればいいかわからない」
こうした不安があるときは、1人で抱え込まずに、相続に詳しい弁護士へ相談することをおすすめします。よつば総合法律事務所では、財産調査から家庭裁判所への申立て、親族との調整まで、ご状況に合わせてサポートいたします。相続放棄でお悩みの方は、お早めにご相談ください。




