最終更新日:2026年7月23日

監修者
よつば総合法律事務所 弁護士 杉山賢伸

特別受益(とくべつじゅえき)とは、亡くなった方(被相続人)から生前に特別な財産の援助(遺贈や生前贈与)を受けた、相続人の「特別な利益」のことです。

この記事では、特別受益の問題で悩んでいる方に向けて、特別受益の範囲、計算方法、特別受益に関する主張をするための手続きの流れなどを相続に詳しい弁護士が解説します。

特別受益に関する法律は複雑です。悩んだら、まずは相続に詳しい弁護士への相談をおすすめします。

特別受益とは

特別受益とは、故人(被相続人)から生前に特別な財産の援助を受けた、相続人の「特別な利益」のことです。たとえば、生前贈与や遺贈(遺言書で財産を受け取ること)などが挙げられます。特別受益があると、相続分が修正されます。

たとえば、父が亡くなって相続人が子ども3名だった場合で考えてみましょう。子どものうち1人だけが父からマイホームの購入資金の援助を受けて、さらに父の預貯金の遺贈も受けていたのに、いざ相続になったときに、他の相続人と同じ相続分で遺産を受け取れるとなれば不公平です。

その不公平を解消するため、特別受益を受けた相続人の相続分を調整します。具体的には、故人が相続開始時に有していた財産に特別受益に当たる生前贈与を加えて総額を出します。それを法定相続分で分けたあと、特別受益に当たる生前贈与や遺贈を差し引いたものが、その人の最終的な相続分になります。

特別受益の範囲

では、どのようなものが特別受益に当たるでしょうか?ここからは、特別受益に当たるものをご紹介します。

遺贈

遺贈とは、遺言によって遺言者の財産の全部または一部を贈与することです。たとえば、自宅不動産など特定の財産を、特定の相続人に遺言書によって渡す場合です。遺贈は原則として特別受益となります。

婚姻に関する贈与

いわゆる持参金や支度金と呼ばれる多額の金銭の生前贈与は特別受益に当たることがあります。

養子縁組に関する贈与

こちらも婚姻に関する贈与と同じく、持参金や支度金の多額の生前贈与は特別受益に当たることがあります。

不動産の贈与

不動産の贈与は、金額が大きいこともあり特別受益に当たることが多いです。

多額の生活費の援助

具体的な金額や援助の趣旨などにもよりますが、親族間の扶養義務を超えて、相続分の先渡しと認められる程度に高額な生活費の援助は、特別受益に当たることがあります。

特別受益ではないケース

特別受益に当たりにくいケース

生命保険

故人が生命保険に加入していると、死亡保険金が発生します。死亡保険金の受取人が共同相続人の1人に指定されている場合、死亡保険金は受取人の「固有の財産」となり、遺産分割の対象となる故人の遺産とはなりません。

そのため、受取人は遺産分割なしで死亡保険金を受け取ることができます。

特別受益に当たるためには、「故人の財産について遺贈や生前贈与を受けること」が必要です。しかし、死亡保険金は、故人の死亡によって受取人が受け取るものですので、故人の財産について遺贈や生前贈与を受けたとはいえません。そのため、生命保険は原則として特別受益には当たりません。

しかし、相続人の1人が多額の死亡保険金を受け取りつつ、遺産についても、法定相続分に従って受け取ることができるとなると、相続人の間で経済的に不公平な結果になることもあります。

そこで、最高裁判所平成16年10月29日決定では、「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条〔特別受益の規定〕の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には」死亡保険金を特別受益に準じて取り扱うとされました。

具体例としては、次のような裁判例があります。

① 東京高等裁判所平成17年10月27日決定

死亡保険金が約1億円である一方、相続開始時の遺産総額も約1億円(保険金と遺産の合計2億円)という事例では、死亡保険金は特別受益に準じて取り扱われました。

② 大阪家庭裁判所堺支部平成18年3月22日決定

死亡保険金が約428万円、遺産は約7000万円という事例では、死亡保険金は特別受益に準じて取り扱われませんでした。

このように、死亡保険金と相続開始時の遺産の総額の比率などを考慮して、特別受益に準じて取り扱うかが決まります。

死亡退職金

退職金支給規程などにより支給金額の算定基準や受取人が定められている死亡退職金は、遺産に含まれないと考えることが一般的です。

そのため、死亡保険金と同じく、死亡退職金を受け取っても、故人の財産について遺贈や生前贈与を受けたとはいえず、特別受益に当たりにくいです。

ただし、死亡保険金と同様に、死亡退職金の金額や遺産の総額などを比較して、相続人間の不公平が著しいと判断されるような特別な事情がある場合には、例外的に特別受益に準じて扱われる可能性があります。

極端に差額のない学資

たとえば、1人の子供が他の子供に比べて特別に多額の学資の支出をしてもらっていた場合、その学資は特別受益に当たる可能性があります。

一方で、このように極端な差額が生じていない場合には、特別受益に当たりにくいです。

特別受益に当たらないケース

法定相続人以外への遺贈・贈与

特別受益に当たるためには、法定相続人への遺贈や贈与である必要があります。そのため、法定相続人以外への遺贈や贈与は特別受益に原則として当たりません。

しかし、常に当たらないというわけではありません。

たとえば、故人が結婚する前に妻になる人に贈与をしたあとに、結婚した場合、贈与した当時に法定相続人ではなかったからといって、特別受益に当たらないとすると、その他の相続人との間で不公平が生じるため、特別受益に当たる可能性があります。

また、福島家庭裁判所白河支部昭和55年5月24日決定の事例があります。この事案では、事実上相続人が利用する農地を、相続人本人ではなく、相続人の配偶者に対して生前贈与しました。これについて裁判所は、相続人本人に対する贈与ではないため形式的には特別受益には当たらないものの、実質的には相続人に贈与されたものであるとして、相続人に対する特別受益に当たると判断しました。

持ち戻し免除の意思表示がある場合

① 原則としての「持ち戻し計算」

特定の相続人だけが、生前に住宅取得資金などの大きな贈与(特別受益)を受けていた場合、そのまま遺産を分けると他の相続人との間に不公平が生じます。

この不公平を解消するため、法律上は生前贈与を「遺産の前渡し」とみなします。 具体的には、贈与された財産を計算上の遺産に加算して総額を決めます。その総額を法定相続分で割ったうえで、贈与を受けた相続人は受け取った贈与の額を引いて最終的に受取額とします。この計算方法を「持ち戻し計算」と呼びます。

② 「持ち戻し免除の意思表示」とは

もっとも、故人が「この生前贈与は特別に与えたものなので、遺産の取り分から差し引かなくてよい」という意思を示すことができます。

このように、生前贈与を遺産分割の計算に含めないよう求める故人の意思表示のことを、「持ち戻し免除の意思表示」といいます。これは、「特定の家族により多くの財産を残してあげたい」という故人の想いを尊重するための制度です。

③ 免除の意思表示があった場合の効果

この「持ち戻し免除の意思表示」があると、特別受益(生前贈与)の持ち戻し計算を行う必要がなくなります。

つまり、過去の生前贈与は考慮せず、「相続開始時(亡くなったとき)に実際に残っている遺産のみ」を対象として、原則通りに法定相続分などで分けることが可能になります。結果として、贈与を受けた相続人は、過去の贈与財産を確保したまま、現在の遺産についても通常の割合で受け取ることができます。

ただし、贈与額が大きい場合、遺留分の問題が別途発生する可能性があります。

婚姻期間20年以上の夫婦間の居住用不動産贈与

①婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人(故人)が、②配偶者に対して居住用不動産を遺贈または贈与した場合、この遺贈または贈与については、持ち戻し免除の意思表示があったものと推定されます。

つまり、配偶者は、この遺贈または贈与を受けた分を相続分から差し引かれないということになり、より多くの遺産を取得することが可能になります。

このルールの意義は、配偶者の老後の生活を守ることにあります。婚姻期間の長い夫婦の一方が、配偶者の老後の生活のために居住用不動産を遺贈・贈与したとします。もしこの贈与分が相続分から差し引かれてしまうと、配偶者は現預金などを受け取れなくなり、生活資金が確保できなくなるおそれがあります。そのような事態を防ぐためのルールです。

なお、婚姻は法律上の婚姻に限られ、事実婚の期間は含まれません。同じ夫婦間で離婚と結婚を繰り返した場合には、その通算期間で20年以上となった段階で遺贈・贈与を行えば適用対象となります。また、居住用不動産は、遺贈・贈与した時点で居住用である必要があります。

特別受益の計算方法

次のケースで特別受益があった場合の持ち戻し計算の流れを解説します。

  • 1組の夫婦がいて、その子どもで、長女・長男・次男がいるとします。
  • 夫が死亡して、相続人と法定相続分は、妻(1/2)・長女(1/6)・長男(1/6)・次男(1/6)です。
  • 夫の相続開始時の遺産総額は5700万円です。
  • 夫は長女に持参金300万円を生前贈与、長男に預金700万円を遺贈(遺言書によって譲り渡すこと)しています。

① 相続開始時の遺産総額に特別受益となる生前贈与の額300万円を足します。遺贈の対象となった財産700万円は、すでに相続開始時の遺産総額の中に含まれているため、二重に足すことはしません。

5700万円+長女の持参金300万円=6000万円

②上記の6000万円を法定相続分に従って分けます。

妻:6000万円×1/2=3000万円
長女・長男・次男:6000万円×1/6=1000万円

③ それぞれの②の金額から特別受益に当たる生前贈与・遺贈の金額を差し引きます。これにより、それぞれの具体的相続分が算出されます。

妻:3000万円
長女:1000万円-持参金300万円=700万円
長男:1000万円-遺贈700万円=300万円
次男:1000万円

(※長男は遺贈によって700万円の預金を受け取った上で、残りの遺産からさらに300万円を受け取ります。長男の受け取り額は合計1000万円です。)

特別受益に関する主張をするための流れ

まずは、特別受益があったことを証明するための証拠を準備して、遺産分割協議で交渉を行います。

合意に至らない場合には、家庭裁判所での調停(話し合い)を行います。

最終的には審判という手続きで各当事者が主張を行い、裁判所が遺産の分け方を決定します。

よくあるご質問

特別受益の主張期間に制限はある?

相続開始時から10年を経過すると、特別受益の主張は原則としてできません。

ただし、10年以内に遺産分割調停を申し立てれば、調停中に10年を経過しても特別受益を主張できます。

20~30年前の贈与でも特別受益になる?

なります。遺産分割においては特別受益の対象となる生前贈与に年数は関係ありません。

とはいえ、20~30年前の贈与は証拠が残っていないことも多いため、証明することが困難であることが多いです。

なお、遺留分(相続人に最低限保障された遺産の取り分)を計算する際には、対象となる生前贈与は原則として「亡くなる前の10年間」に限られます。

「持ち戻し免除の意思表示」とは?

持ち戻し免除の意思表示とは、特別受益があったとしても、持ち戻し計算をしないという故人の意思表示のことです。

つまり「生前贈与は無視して、死亡時に残っていた遺産を法律上の割合で分ける」というような故人の意思です。

「贈与時」「相続発生時」「直近」のいずれの金額で特別受益を計算する?

特別受益の計算は、相続発生(開始)時の金額で行います。

たとえば、贈与当時の価格で1000万円だった不動産が、相続発生(開始)時に1200万円、直近では1500万円になった場合、1200万円として計算します。

特別受益の証拠となる資料には何がある?

預金の生前贈与の場合には、故人の預金口座の取引履歴が証拠となる資料になります。

不動産の生前贈与であれば、法務局で取得できる登記事項証明書(登記簿謄本)が証拠となります。

まとめ:特別受益の争いが大きくなる前に弁護士に

特別受益は、相続人の間の不公平を解消するための合理的なルールですが、ルールが極めて難解で、実際に主張するには専門的な判断が不可欠です。

また、特別受益を問題とする遺産分割では相続人の間で争いが生じることが多く、適正に主張しないと争いが大きくなってしまうことがあります。争いが大きくなる前にぜひ一度弁護士にご相談ください。

監修者
よつば総合法律事務所 弁護士 杉山賢伸

NPO法人相続アドバイザー協議会認定会員。丁寧で、わかりやすく、相談しやすい弁護士として、幅広い相続のお悩みに対応いたします。お気軽にご相談ください。千葉県弁護士会所属(登録番号65705)。