最終更新日:2026年8月19日

監修者
よつば総合法律事務所 弁護士 加藤貴紀

遺留分には、大きく分けて3つの期限があります。

1つ目は「1年」です。相続が始まったことと、自分の遺留分を侵害する遺言や贈与があったことの両方を知った時から1年が過ぎると、遺留分侵害額請求権は時効によって消滅します。

2つ目は「10年」です。こちらは相続が始まった時から10年が過ぎると、遺留分の侵害に気づいていなかったとしても権利がなくなる、というものです。

3つ目は「5年」です。遺留分侵害額請求権を行使すると、相手に金銭の支払いを求める権利が発生します。この金銭債権については、原則として、権利を行使できることを知った時から5年の時効が問題になります。

いずれの期限も決して長くはなく、油断しているとあっという間に過ぎてしまいます。請求する側にとっても、請求された側にとっても、まずは期限のしくみを正しくつかんでおくことが、最初の一歩になります。

遺留分とは

遺留分とは、亡くなった人の財産について、配偶者や子ども、親などに法律で保障された最低限の取り分のことです。

たとえば「全財産を長男に渡す」という遺言があっても、ほかの相続人は、遺留分に相当する金銭の支払いを請求できます。この請求を「遺留分侵害額請求」といいます。

ちなみに、亡くなった人の兄弟姉妹には、遺留分は認められていません。

遺留分の期間制限

遺留分を請求する権利は、いつまでも行使できるものではありません。

民法では、相続をめぐる争いを早く終わらせ、法律関係を安定させるために期限を定めています。

期限は「1年」「10年」「5年」の3種類です。まずは下の表で、全体像をつかんでください。

期限 いつから数えるか どうなるか
1年(時効) ①相続が始まったことと、②遺留分を侵害する遺言・贈与があったことの両方を知った時 遺留分侵害額請求権が消滅する
10年(除斥期間) 相続が始まった時 侵害を知らなくても、請求できなくなる
5年(時効) 遺留分侵害額請求権を行使し、金銭債権について権利を行使できることを知った時 金銭を受け取る権利が消滅する

それぞれの中身を順番に見ていきましょう。

遺留分の1年の時効期間

遺留分を請求する人(遺留分権利者といいます)が、相続が始まったことと、自分の遺留分が侵害されたことの両方を知ってから1年たつと、遺留分侵害額請求ができなくなります。

これを「短期消滅時効」と呼びます。期限が短いので、早めの行動が大切です。

たとえば、2026年4月1日に親が亡くなり、同じ日に「全財産を兄に渡す」という遺言を見たとします。この場合、2027年4月1日までに遺留分侵害額請求の意思表示を相手にしなければなりません。

遺留分の10年の除斥期間

相続が始まってから10年がたつと、遺留分侵害額請求はできなくなります。

この場合、自分の遺留分が侵害されたことを知らなかったとしても、10年が過ぎれば請求はできなくなります。この10年を「除斥期間」と呼びます。

たとえば、長く連絡を取っていなかった相続人が、親(被相続人)が亡くなったことを知らないまま10年が過ぎてしまった場合、もはや遺留分侵害額請求はできません。

除斥期間と時効の違いは、後ほどくわしく説明します。

金銭債権の5年の時効期間

遺留分侵害額請求をすると、相続財産を多く受け取っている相手に対して、本来確保されるはずだった遺留分に相当する金額の支払いを求めることができます。この、金銭の支払いを求める権利を「金銭債権」といいます。

ただし、この金銭債権にも、別の時効があります。

具体的には、金銭を請求できると知った時から5年が経過すると、時効によって金銭を受け取れなくなるおそれがあります。

たとえば、遺留分侵害額請求をしたあと、相手と支払額や支払方法について話し合いを続けるケースがあります。こうした話し合いの間も、金銭債権の時効は止まらずに進んでいくことが多いため、注意が必要です。

期間制限を止める方法

遺留分を請求するための期限は、どれも短く、何もしなければあっという間に過ぎてしまいます。では、期限を止める方法はないのでしょうか。

時効(1年)の期間制限を止める方法

まずは、遺留分侵害額請求の「1年」の時効への対処法です。

相続が始まったことと、自分の遺留分が侵害されたことの両方を知ってから1年以内に「遺留分侵害額請求をします」と相手に伝えれば、時効による権利の消滅を防ぐことができます。

口頭やメールで伝えた場合でも、請求として認められる可能性はあります。しかし、それだけでは後から「言った」「言わない」などと争いになるおそれがあります。

証拠を残すために、いつ・誰に・どんな内容を送ったかが記録に残る「配達証明付きの内容証明郵便」で伝えるのが安全です。

時効(5年)の期間制限を止める方法

これに対し、遺留分侵害額請求をした後に始まる「5年」の時効は、ルールがまったく異なります。相手に「金銭を支払ってください」と伝えるだけでは、時効を一時的に(6か月間)先延ばしにすることはできても、期間をリセットしてゼロに戻すことはできません。

なお、時効期間が過ぎることを、法律上「時効が完成する」といいます。この完成を防ぐには、「完成猶予」や「更新」につながる、具体的な手続きが必要になります。

完成猶予とは、時効の完成を一時的に先延ばしにすることです。更新とは、それまで進んでいた時効期間をリセットして、ゼロから数え直すことです。

具体的には、次のような手続きがあります。

① 裁判上の請求・支払督促

裁判所に、金銭の支払いについて判断や命令を求める方法です。たとえば、訴訟を起こして判決を求めたり、簡易裁判所に支払督促を申し立てたりする方法があります。

これらの手続きが続いている間は、時効の完成が猶予されます。また、判決などで権利が確定すれば、時効が更新され、期限はゼロから数え直しになります。

② 調停・和解の申立て

調停や和解は、裁判所で相手と話し合い、合意による解決を目指す手続きです。通常の裁判のように判決を求めるのではなく、話し合いによって支払額や支払方法などを決めていきます。

この手続きが続いている間も、時効の完成は猶予されます。合意できずに終わった場合でも、一定の場合には、その後6か月は時効の完成が猶予されます。

③ 承認

相手が、金銭を支払う義務があると認める「承認」を行うことによっても、時効の完成を防げます。

たとえば、相手が「支払います」「分割で支払いたい」などと伝えた場合には、承認にあたる可能性があります。

承認があった時点で時効が更新され、期限はゼロから数え直しとなります。

④ 催告

催告とは、裁判所の手続きを使わずに、相手に支払いを求めることです。たとえば、内容証明郵便で支払いを求める通知を送る方法があります。

催告をすると、その時から6か月間は時効の完成が猶予されます。ただし、催告だけで時効がリセットされるわけではありません。この6か月のうちに裁判などの手続きをとることで、時効による権利消滅を防げる場合があります。

除斥期間(10年)の期間制限を止める方法

10年の除斥期間には、進行を一時的に止めたり、期間をリセットしたりする方法はありません。相続が始まってから10年が経過すると、遺留分の権利は自動的に消滅してしまいます。

そのため、10年の期限が来る前に、具体的な「権利の行使」を完了させなければなりません。

具体的には、財産を多く受け取った相手方に対して、「遺留分侵害額を請求します」という意思表示を行う必要があります。

後々のトラブルを防ぐためにも、いつ・誰が・どんな内容を送ったかを証明できる「内容証明郵便(配達証明付き)」で請求書面を送るのが確実な方法です。

「10年もあるからまだ大丈夫」と思っていても、過去の遺産の調査や書類の準備には思った以上に時間がかかるものです。カウントダウンを止める方法がない以上、早めの対応が必要です。

よくあるご質問

遺留分の期限は、一人ひとりの状況によって判断が分かれます。ここでは、よく寄せられる質問にお答えします。

「遺留分が侵害されていると知った時から1年」の「知った時」とは?

「知った時」とは、次の2つを両方とも知った時を指します。1つは、相続が始まったことです。もう1つは、自分の遺留分を侵害する贈与や遺言があったことです。

そのため、贈与や遺言があったと知っていても、それが自分の取り分を侵害するほどの内容だと気づかなければ、1年は進みません。

ただし、注意点があります。亡くなった人の財産のほぼすべてが特定の誰かに渡っていると知っていた場合には、「自分の遺留分が侵害されていることも当然わかったはずだ」と評価され、原則として侵害を知っていたものとして扱われます。

財産の全体がまだわからない段階でも、念のため1年以内に請求しておくと安心です。

遺言書の存在を知らされていなかった場合、いつから時効を計算する?

遺言書の存在を知らなければ、遺留分が侵害されていることも知りようがありません。したがって、遺言書の存在を知らされていなかった場合は、1年の時効は進みません。

ただし、相続が始まってから10年が過ぎれば、遺言を知らなくても権利は消えます。先ほど説明した10年の除斥期間が働くためです。

口頭やメールで請求しただけで時効は止められる?

法律上は、1年のうちに請求の意思を伝えれば、口頭やメールでも権利を行使したことになり、時効による消滅を防げます。

しかし、伝えた事実や日付を、後から証明するのは簡単ではありません。確実に記録を残すためにも、内容証明郵便で請求しておくことをおすすめします。

遺言書の有効・無効を争っていても遺留分は時効になる?

遺言書が有効か無効かを争っている最中でも、時効は進んでしまうことが多いです。

というのも、財産の大半が特定の人に渡っていると知っていれば、遺留分の侵害も知っていたものと扱われやすいからです。遺言が無効だと考えている場合でも、特別な事情がない限り、1年の時効期間は進んでいきます。

したがって、有効・無効を争いながらでも、内容証明郵便で遺留分侵害額請求をしておくと安心です。

複数の相続人が遺留分を侵害している場合、それぞれに請求が必要?

遺留分侵害額請求は、財産を多く受け取った人それぞれに対して行う必要があります。

相手が複数いる時は、各人にその負担分を請求します。1人にだけ請求しても、ほかの人に対する時効は止まらないため、請求漏れには十分な注意が必要です。

たとえば、兄と妹の2人が多く財産を受け取っていたとします。この場合、兄だけに請求しても、妹の分の時効は止まらないため、両方に対して請求しておかなければなりません。

時効と除斥期間の違いは?

時効と除斥期間は、どちらも権利を行使できる期間を制限するものですが、そのルールは異なります。一般的に言われている主な違いは、次の3点です。

1つ目は、効果の生じ方です。時効は、期間が過ぎただけで当然に効力が生じるわけではありません。時効によって利益を受ける人が「時効です」と主張することではじめて、請求する権利が消えます。これに対し、除斥期間は、当事者の主張がなくても、期間の経過によって当然に権利が消滅します。

2つ目は、途中で止められるかどうかです。時効には、期限を先延ばしにする完成猶予や、期間をリセットする更新というしくみがあります。一方、除斥期間には、こうしたルールは原則としてありません。

3つ目は、期間を数え始める時点です。時効は、本人が「権利を行使できると知った時」など、主観的な事情をもとに期間を数えることが多いです。これに対し、除斥期間は、本人が知っていたかどうかに関係なく、相続開始の時など、客観的な時点から一律に数えます。

まとめ:遺留分の期間制限に注意

遺留分の期限は、どれも短く、注意が必要です。最後に、ポイントを整理しておきましょう。

まず、遺留分を請求するには、相続が始まったことと、自分の遺留分が侵害されたことを知ってから1年以内に行動する必要があります。また、たとえ侵害に気づいていなかった場合でも、相続が始まってから10年が過ぎると、原則として請求できなくなります。

さらに、遺留分侵害額請求をした後も、金銭を受け取る権利には5年という別の時効があります。請求後に話し合いが長引く場合には、その間も時効が進み続けるため、注意が必要です。

期限を過ぎると、本来受け取れたはずの金銭を請求できなくなるおそれがあります。一方で、請求された側にとっては、「すでに期限が過ぎていないか」が、重要な確認ポイントになります。もし期限が過ぎていれば、時効を主張することで支払いを拒める場合があるからです。

遺留分をめぐる問題は、請求する側にとっても、請求された側にとっても、判断に迷う場面が少なくありません。

よつば総合法律事務所では、相続に詳しい弁護士が遺留分に関するご相談に対応しています。期限が気になる方は、どうぞお早めにご相談ください。

監修者
よつば総合法律事務所 弁護士 加藤貴紀

名古屋事務所所長。相続に関連する問題に幅広く対応しています。税理士や司法書士などの他士業と連携することでワンストップで問題解決にあたります。愛知県弁護士会所属(登録番号52907)。