賃料収入が発生している不動産が遺産となっている場合、相続が発生してから遺産分割が成立するまでの賃料は誰のものになるのでしょうか。また、遺留分侵害が発生している場合には、遺産から発生する賃料収入は誰のものになるのでしょうか。

1. 遺産分割までの賃料について

相続人が複数いる場合には、相続開始から遺産分割が成立するまでの間、相続人全員が、不動産を共有することになります。その後、遺産分割の結果、不動産の相続をすることになった相続人は、相続の開始時にさかのぼって、不動産の所有権を取得したことになります。ここで問題となるのが、相続開始から遺産分割までの賃料は誰のものになるのかという点です。

この点については、最高裁判所の判例があります(最判平成17年9月8日)。

判例は、遺産共有の状態にある不動産から生ずる金銭債権たる賃料債権は、当該不動産を共有する相続人がその持分(=相続分)に応じて分割単独債権として取得し、遺産分割の遡及効によってその効果が覆るものではない、と判示しています。

つまり、賃料は、不動産を相続する人が取得できるものではなく、法定相続人が法定相続分に従って取得することになるのです。

2. 遺留分減殺請求を行った場合の賃料について(令和元年6月30日以前の相続)

(1) 遺留分減殺請求を行った場合

令和元年6月30日以前に発生した相続に関し、遺留分の侵害が発生している場合には、遺留分減殺請求を行うことができます。遺留分減殺の請求をすると、遺産について共有持分を取得することになります。

そして、遺留分減殺請求により不動産の共有持分を取得した場合、遺留分権利者は、その共有持分に応じて、その不動産から生じる賃料収入を請求することができます。

もっとも、請求できる賃料は、遺留分減殺請求をした日以降の賃料になります。相続開始から遺留分減殺請求をした日までの賃料については、請求することができません。

(2) 価格弁償権が行使された場合

遺留分減殺請求に対し、受遺者が価格弁償権を行使した場合、遺留分権利者は、賃料を請求することができるのでしょうか。これについては、見解が分かれるところです。

価格弁償権の効力に関する最高裁判所の判例では、遺留分減殺請求に対して、受遺者が価格弁償権を行使した場合、遺留分減殺請求の対象となる財産は、はじめから受遺者に帰属していた、という扱いをしています(最判平成4年11月16日)。

一方、先ほど1。遺産分割までの賃料についての箇所で紹介した最高裁判所の判例(最判平成17年9月8日)は、遺産共有の状態にある不動産から生ずる金銭債権たる賃料債権は、当該不動産を共有する相続人が相続分に応じて分割単独債権として取得し、遺産分割の遡及効によってその効果が覆るものではない、と判示していました。

上記2つの判例を基に考えると、価格弁償権が行使された場合の賃料については、判断が分かれる可能性があります。最判平成4年11月16日の内容からすると、価格弁償権の行使により、遺留分減殺請求の対象となる財産は、はじめから受遺者に帰属していることになるため、遺留分権利者は、賃料を請求することができない、とも考えられます。

一方、最判平成17年9月8日の内容からすると、価格弁償権の行使により、遺留分減殺請求の対象となる財産は、はじめから受遺者に帰属していることになるが、不動産から生じる賃料債権は、遺留分権利者が分割単独債権として取得し、価格弁償権の遡及効によってその効果が覆るものではない、とも考えられる可能性があります。

3. 遺留分侵害額請求を行った場合の賃料について(令和元年7月1日以降の相続)

相続法改正前の遺留分減殺請求権を行使すると、遺贈は遺留分を侵害する限度で失効し、受遺者が取得した権利はその限度で当然に遺留分減殺請求をした遺留分権利者に帰属することになります。つまり、遺留分減殺の請求をすると、遺産について共有持分を取得することになります。

一方、相続法改正後の遺留分侵害額請求権は、侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができる権利となります。遺留分権利者が請求できるのは金銭だけとなり、不動産の共有持分を取得することはできません。

よって、遺留分侵害額請求をしても、不動産の共有持分を取得することはできないため、賃料を請求することはできなくなりました。


相続の紛争は長期化することがあり、遺産不動産から生じる賃料の金額も大きくなってきます。賃料の扱いには注意をする必要があります。相続についてお悩みの際は専門家にご相談ください。