1. 特別縁故者制度とは

特別縁故者制度とは、亡くなった人に相続人がいない場合に、生前関係が深かった人に対して相続財産を分与するという制度です。

特別縁故者制度を使うことで、民法上は相続人に当たらない人でも相続財産を分与される可能性があります。特別縁故者に当たるかどうか、そしてどの程度の財産が分与されるかを決めるのは家庭裁判所になります。

2. 特別縁故者として財産分与を受けるための条件

特別縁故者として財産分与を受けるためには、以下の3つの条件が全てそろわなければなりません。

  • ①相続人がいないこと
  • ②相続財産価値の合計がプラスであること(財産の価値が債務を上回ること)
  • ③特別縁故者に当たること

※被相続人(亡くなった方)の遺言は不要です。

①には、相続人全員が相続放棄した場合も含まれます。行方不明の者も含めて相続人が1人でもいる場合、特別縁故者制度は使えません。ただ、相続人がいる場合は6で説明する「特別寄与料」の制度を使って寄与分の金額を請求できる可能性があります。

一番判断が難しいのは③の「特別縁故者」です。次の項ではこの「特別縁故者」について説明します。

3. 「特別縁故者」とは?

特別縁故者とは、以下(1)~(3)のうちのいずれかを満たす人のことです。

(1) 被相続人と生計を同じくしていた

被相続人と家計を同じにして生活していたことを指します。親族が同一の家で生活していた場合が典型例です。「生計を同じくしていた」として特別縁故者であると認められるのは被相続人の親族であることが多いですが、全くの赤の他人が「生計を同じくしていた」として特別縁故者であると認められたケースも一応存在します。

内縁の配偶者についても生計を同じくしていたとして特別縁故者に当たると判断されることがあります。ただし、愛人関係維持のための内縁関係や、重婚的内縁関係など、公序良俗に反する場合は特別縁故者に当たらないと判断される可能性が高いです。

(2) 被相続人の療養看護に努めた

被相続人が何らかの病気・ケガを負った状態であったとき、療養看護の全部または一部を行ったことを指します。

被相続人が病院に入院したり施設に入所したりした場合は、周りの人が療養看護自体を行うことはないかもしれませんが、この場合にも、入院の手続きを行ったり、生活用品を購入して届けたりといった療養看護の周辺部分を行っていれば、「療養看護に努めた者」に準じるとして特別縁故者であると認められることがあります。

また、療養看護に対して正当な対価を得ていた場合、「療養看護に努めた」ことを理由に特別縁故者と認められることはほとんどありません。つまり、お仕事として療養看護を行っていた看護師・介護士が特別縁故者となることは難しいことが多いと思われます。

しかし中には、対価を得てはいたけれど、対価以上に「献身的に被相続人の看護に尽くした」として特別の事情があるとされ、例外的に特別縁故者に当たるとされたケースも一応存在するため、療養介護の態様によっては財産分与を受けられる可能性も0ではありません。

(3) その他特別の縁故があった

上記(1)と(2)には当たらないものの、それらと同じくらいの具体的で現実的な交流が被相続人との間にあり、相続財産を分与することが被相続人の遺志にも合致すると考えられる程度に密接な関係があったことを指します。

例えば、独居の被相続人を頻繁に訪問して精神的支えになった人や、通常の親族、遺言が不備のため無効になってしまった受遺者も「その他特別の縁故があった」として相続財産を受け取ることができる可能性があります。

また、被相続人を支えた人だけでなく、被相続人に援助されていた人や被相続人が熱心に応援していた団体も、被相続人の遺志を考慮して特別縁故者とされる場合があります。

さらに、人間だけでなく、法人や地方公共団体も特別縁故者となったケースも存在します。

このように、「その他特別の縁故があった者」に該当する人は様々であり、「〇〇だから絶対に特別縁故者に当たる」と一概に言うことはできません。ただ、被相続人との間に親族関係がある場合はそうでない場合と比べて特別縁故者と認められやすくなるということは言えます。また、被相続人の葬儀や法要の主宰者となったことが「特別の縁故」を認定するに当たって考慮されていることが多くあります。

(4) 過去の一時期の縁故はどう扱われる?

被相続人が亡くなった時点では特別な縁故がなかった人でも、過去に特別な縁故があったと認められれば、特別縁故者に当たるとされる場合があります。
ただ、亡くなった時点で特別な縁故があった人と、過去に特別な縁故があっただけの人を比べると、前者のほうが被相続人とより密接な関係にあったと判断される可能性が高いのが事実です。そのため、複数の特別縁故者が存在した場合、被相続人と過去に縁故があっただけの人は相続財産の分与割合が小さくなる可能性があります。

過去に特別の縁故関係があっただけで特別縁故者と認められた例としては、被相続人の従姉が、20年近くも音信不通だった素行不良の被相続人の不動産を、その間事実上管理していたため、その事情を考慮して特別縁故者と判断された事例があります。

(5) 相続放棄をした相続人は特別縁故者になれる?

相続人が相続放棄をすると、最初から相続人でなかったものとして扱われます。また、一度相続放棄をしてしまうと相続人に戻ることができません。

しかし、相続放棄をした相続人も、特別縁故者として相続財産の分与を受けることならできます。ただし、ほかに相続人がいる場合は特別縁故者にはなれませんし、以下で触れるとおり、相続人であったときより税金が高くなる場合もあります。

相続放棄を考えている場合には、専門家に相談して、本当に放棄してもよいのかをよくよく考えるようにしましょう。

4. 特別縁故者が財産分与を受けた場合にかかる税金

特別縁故者が財産分与を受けた場合、相続税が課されます。

具体的には、財産分与当時の財産の価値から基礎控除額(令和4年5月時点では3,000万円)を引いた金額に税率(財産の価値によって異なります)を掛けて算出することになります。
つまり、相続財産が3,000万円以下であれば相続税は課されません。なお、相続人全員が相続放棄をした場合には、異なりますのでご注意ください。

また、特別縁故者の場合は、配偶者や子供が相続した場合と比べて、負担する相続税が2割増になりますので注意が必要です。

5. 特別縁故者が相続財産の分与を申し立てる流れ

特別縁故者として財産分与を申し立てるまでの流れは以下のとおりです。

(1)相続人の有無の確認

被相続人の戸籍簿等を確認し、相続人の有無を確認します。相続人がいた場合は、誰も特別縁故者にはなることはありません。

(2)相続財産管理人の選任の申立て

戸籍簿等を確認して相続人がいない場合は、家庭裁判所に対して相続財産管理人の選任の申立てを行います。家庭裁判所ならどこでもいいというわけではなく、被相続人が最後に住んでいた住所地を管轄する家庭裁判所である必要があります。

この申立てが相当であると認められると、相続財産管理人が選任されたことが公告されます。この公告期間(2か月間)のうちに相続人が現れなければ、(3)へ進みます。

(3)債権申出の公告

相続財産管理人により債権申出の公告がなされます(2か月間)。この公告によって被相続人の債権者が現れ、相続財産より債務のほうが大きいことがわかった場合は、財産分与はないことになります。

(4)相続人捜索の公告

相続人捜索の公告がなされます(6か月間)。この期間中に相続人や債権者が出てこなければ、その後に相続人や債権者が出てきたとしても、彼らは相続財産に対する権利を主張することができなくなります。

(5)財産分与の申し立て

ここまでの手続きを経て、相続人が存在せず、相続財産を超える債務もないとわかると、家庭裁判所に特別縁故者の申し立てをすることができるようになります。
ただ、この申立ては(4)の公告期間(6か月)の経過後、3か月以内という期間制限があるため、期間を過ぎてしまわないよう注意が必要です。

以上のとおり、特別縁故者が財産分与を受けるためには、手続きを始めてからどんなに早くとも10か月はかかってしまいます。戸籍を取り寄せたり、債権者が現れたりした場合には、さらに時間がかかる可能性が十分にあります。

6. 特別縁故者以外の制度(特別寄与料)

令和元年の民法改正で、新しく「特別寄与料」という制度が設けられました。

特別寄与料は、相続人以外の親族が無償で療養看護や労務の提供をした結果として、被相続人の財産が増加もしくは維持された場合に、相続人に対して寄与に応じた金額を請求できるという制度です。
特別縁故者制度と違って、相続人がいる場合でも請求できるので、「相続人がいるけれど自分もいくらか請求したい」という場合は特別寄与料の請求をすることになります。

特別寄与料を請求できる典型的な例としては、被相続人の子の配偶者が介護療養を無償で行っていたけれど、その夫(被相続人の実子)が既に死亡していたために、相続財産を受け取ることができない場合が挙げられます。

特別寄与料については、相続人との間で話がつけば裁判所の介入は不要です。しかし、話合いがまとまらない場合は、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6か月以内又は相続開始の時から1年以内(最長で相続開始時から1年)に家庭裁判所に対して調停・審判を申し立てなければなりません。
期間制限が厳しいため、被相続人が死亡したらできるだけ早く相続人と特別寄与料について話をして、家庭裁判所に申し立てるかどうか判断する必要があります。

7. 当事務所の具体的な取り扱い事例

当事務所で取扱いをさせて頂きました事例のなかでいくつかの事例を紹介させて頂きます。

(1)被相続人の従弟について特別縁故者として相続財産の分与(5,000万円)が認められた例

ご依頼者様は被相続人の従弟にあたる方でした。ご依頼者様は、被相続人と定期的な交流はありましたが、同居や同一家計等ではなく、主に被相続人所有の賃貸不動産について、管理や賃借人との交渉を代理して行いました。また、被相続人の葬儀で喪主になるなど、死亡後にも尽力されていました。

当事務所にご依頼頂いた後は、ご依頼者様から丁寧に事情をお伺いさせて頂き、また、それを裏付ける書類等を集めることに加えて、事情をよく知る方に会いにいって陳述書の作成にご協力頂くなど、裏付け資料を収集しました。

同居親族、同一家計、療養看護を行うといった典型的な場合ではありませんでしたが、詳細な主張と裏付け資料の提出により、特別縁故者としての財産分与を認めて頂きました。

(2)被相続人の叔母について特別縁故者として相続財産の分与(1,400万円)が認められた例

ご依頼者様は、被相続人の叔母にあたる方でした。ご依頼者様は同居や同一家計ではありませんでしたが、親族として被相続人のことを気にかけて頻繁に食事の差し入れをしたり、話し相手になるなど精神的な支えにもなっていました。また、施設の方と協力して、被相続人のサポートも行っておりました。

当事務所にご依頼頂いた後は、施設で事情をよく知る方にお会いして陳述書を作成頂くなど、ご依頼者様が被相続人のために行った内容やそれを裏付ける資料の収集を行いました。

また、家庭裁判所の調査官面談に同席させて頂くなど、可能な限り漏れがないように主張や証拠の収集・提出を行いました。

その結果、本件も典型的な場合ではありませんでしたが、別の特別縁故者の方の認定額よりも格段に多い金額である1,400万円の相続財産の分与を認めて頂くことができました。

8. おわりに

特別縁故者の財産分与も特別寄与料も、財産がもらえるかどうかは最終的に家庭裁判所の判断にかかっています。

どのように申立てをすれば裁判所に認めてもらいやすくなるのか、どういった書面をそろえなければならないのかは専門的な判断になります。
期間制限もあるため、手続きが難しいと感じた場合は当事務所にぜひご相談頂ければと思います。