1. いらない実家、どうする?

「田舎の親が住んでいる家と土地、将来的にどうすればいいんだろう」…

こうしたお悩みを抱える人は多いです。自分や兄弟は実家に住む予定もないし、管理処分に困りそう。田舎の土地で価値も高くないし、できれば相続したくない。そんなときに取るべき方法をご説明します。

2. 相続放棄する

(1) 相続放棄

相続放棄をすると、最初から相続人でなかったものとして扱われます。財産も債権も債務も、何も相続しないことになるのです。

そのため、不要な土地の所有権が自分に帰属したり、管理義務が発生したりこともありません(⑵で後述のとおり一部例外があります。)。

相続放棄のデメリットは、不動産以外の全ての財産(現金、預貯金、有価証券、貴金属など)も相続できなくなるという点です。
また、相続開始後(被相続人の死亡後)に相続財産を処分してしまうと、相続を承認したものとみなされ、相続放棄ができなくなります。注意しましょう。

(2) 相続放棄しても管理義務が残るのか

例外的に、相続放棄をした後も相続財産の管理義務を負う場合があるとされています。

現在の民法940条1項を見てみましょう。

(相続の放棄をした者による管理)

第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。

つまり、

  1. 相続放棄をした人が
  2. 放棄によって相続人となった人が相続財産の管理を始めることができるまで
  3. 自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない

とされています。

例えば、被相続人の子が全員相続放棄した場合には被相続人の親が相続人になりますが、このときの被相続人の子が「相続放棄をした人」、被相続人の親が「放棄によって相続人となった人」になります。
被相続人の親が「相続財産の管理」を始められるまでは、相続放棄した被相続人の子の管理義務が継続する、ということです。

この管理義務はあくまで他の相続人に対して負うものです。
土地の近隣住民や市町村といった第三者に対するものではありません。つまり、相続放棄した土地の近隣住民から「雑草が茂って迷惑しているからなんとかしてくれ」等といわれても、それを解消する義務は負わないのです。

ただし、別途不法行為法などで「土地工作物の占有者」としての責任を問われ、損害賠償責任を負う可能性はあります(最後の相続放棄者であるというだけで土地工作物の「占有者」に当たるのか否かは現段階では明らかではありません。)。

そのため、近隣に迷惑をかけない程度の最低限の管理はしておいたほうが無難でしょう。

さてこの民法940条1項の条文には問題があります。

  • 「管理義務」の内容がはっきりしません。
  • 「相続財産の管理を始めることができるまで」というのもいつの時点までを指すのかわかりません。
  • 相続財産と全く関わりのなかった相続人が急に管理義務を負うことになるのは酷ですが、その場合の扱いもわかりません。

これらについて判示した裁判例も特に見つかりませんでした。

(3)【改正後】放棄の時に占有していなければ管理義務を負わない

上記の問題があったため、この条文は改正されます。施行日は来年2023年4月1日です。

改正後は以下のようになります。

(相続の放棄をした者による管理)

第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。

  1. 相続の放棄をした者は
  2. その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは
  3. 相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間
  4. 自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。

改正によって、管理義務の内容が「保存」に限られることが明らかになりました。

また、相続放棄後も管理義務を負うのは、放棄の時に財産を現に占有していた場合に限られるとされました。

例えば、相続人が親(被相続人)と一緒に実家(遺産)に住んでいて、相続放棄の時もその家に住んでいた場合は、他の相続人等に引き渡すまで実家の管理義務を負います。
逆に、まったくかかわりのない不動産については、相続放棄すれば以後は民法940条の管理義務を負うことはありません。

「引き渡すまでの間」については、他の相続人が引き渡しを受けてくれない場合や、他に相続人がいない場合に永遠に管理義務を負うことになるのかが問題となります。
こうした場合は供託(民法494条1項)をすることで引き渡し義務を消滅させることで管理義務を免れることができると解されます。

また、保存義務を負う放棄者が利害関係人として相続財産管理人の選任を申立て、その相続財産管理人に相続財産を引き渡すことで保存義務を免れることも考えられます。

3. 遺産分割の話し合いで帰属を決める

相続放棄をせずに、不動産の所有権が帰属するのを避ける方法もあります。

遺産分割の話し合いをする際に、他の相続人に不動産の所有権全部を相続してもらえないかどうか相談するというのがその一つです。この方法であれば、不動産以外の遺産は相続しつつ、不動産との関わりは無くすことができます。

しかし、他の相続人が不動産を相続してくれるかどうかはわかりません。田舎で価値の低い不動産であったり、そこに住む予定がなかったりする場合は、話し合いがまとまることは難しいかもしれません。

4. 【新制度】相続してから土地を国に帰属させる

(1) 相続土地国庫帰属制度の利用

相続放棄をせずに、不動産の所有権が帰属するのを避ける方法をもう一つご紹介します。

来年2023年4月27日に利用できるようになる相続土地国庫帰属制度です。この制度を使えば、一旦実家の土地を相続した後で、その土地を国庫に帰属させることができます(一定の要件を満たす必要はあります。)。

対象となるのは相続によって取得した土地のみで、建物や、売買によって取得した土地は対象外です。相続によって取得した土地であれば、それが何十年前の相続であってもこの制度を利用できます。

(2) 手続きの流れ

手続きは以下のように進んでいきます。

国庫帰属の承認申請

法務大臣(法務局)の要件審査(書類確認、現地調査など)

負担金の納付

負担金の納付があった時点から国庫帰属

(3) 申請できる人

相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により、その土地の所有権又は共有持分権を取得した人が申請権者になります。複数人が土地を共有するときは共有者全員で共同して申請しなければなりません。

また、共有者の中に1人でも相続によって持分権を取得した人がいれば、その他の人は相続によって取得していなくても、申請することができます。

ちなみに、審査手数料の金額は政令で定められる予定です。

(4) 土地についての要件

要件審査で却下要件又は不承認要件に当たると判断された場合、土地を国庫帰属させることはできません。

① 却下要件

以下のいずれかに当たる土地については承認申請することができず、申請は却下されます。

  1. 建物の存する土地
  2. 担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
  3. 通路その他の他人による使用が予定される土地として政令で定めるものが含まれる土地
  4. 土壌汚染対策法上の特定有害物質により汚染されている土地
  5. 境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地

② 不承認要件

対象になる土地が以下のいずれにも該当しない場合は、法務大臣は申請を承認しなければなりません。

  1. 崖(勾配、高さその他の事項について政令で定める基準に該当するものに限る。)がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの
  2. 土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地
  3. 除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地
  4. 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地として政令で定めるもの
  5. 上記のほか、通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地として政令で定めるもの

却下、不承認のいずれの処分についても不服申立てが可能です。

(5) 負担金の納付

承認を受けた申請者は、土地の性質に応じた標準的な管理費用を考慮して算出した10年分の土地管理費相当額の負担金(詳細は政令で規定される予定。)を納付することになります。

あくまで参考値ですが、現状の国有地の標準的な管理費用(10年分)は、粗放的な管理で足りる原野で約20万円、市街地の宅地(200㎡)で約80万円となっています。

※令和4年9月29日、負担金に関する施行令が公布されました。負担金算定の概要は以下のとおりです。

①宅地 面積にかかわらず1筆あたり20万円

ただし、都市計画法の市街化区域又は用途地域が指定されている地域については免責に応じて算定。

②田、畑 面積にかかわらず1筆あたり20万円

ただし、都市計画法の市街化区域又は用途地域が指定されている地域、農用地区域等の田・畑については、面積に応じて算定。

③森林 面積に応じて算定
④その他(雑種地、原野等) 面積にかかわらず1筆あたり20万円

承認申請者は、隣接する2筆以上の土地について、一つの土地とみなして負担金の額を算定することを申し出ることができます。

5. おわりに

相続土地国庫帰属制度は、不要な土地を手放せる手段として期待が持てる制度です。
しかし、土地の上に建物があると利用できない、隣地との境界が明らかでないと利用できないなど、却下要件・不承認要件に引っかかる土地も多いかと思われます。

また、相続から長期間が経過している土地は、相続人の数が膨れ上がり、全員で共同して申請することが困難である可能性もあります。

相続した土地、相続する予定の土地をどうすべきか、迷ったら一度弁護士にご相談ください。

(文責:弁護士 辻佐和子)