近しい人が亡くなると、法要で忙しかったり、気持ちの整理に時間が必要であったりして、他のことに手が回らない方もたくさんいらっしゃいます。
そして落ち着いた後も、日常の忙しさからついつい相続のことは忘れてしまいます。

「そういえばあの人の遺産、どうやって分けるか話し合ってないな…」

故人の遺産は、遺言が無く、相続人が複数いる場合には遺産分割協議で分けることになります(相続放棄をした人については、相続人ではなくなるので遺産分割協議には参加しません。)。この遺産分割協議に期限はあるのでしょうか。

1. 遺産分割協議に期限はない

遺産分割協議とは、相続人が話合って遺産の配分を決めることです。
遺産分割協議に期限はありません。被相続人が亡くなってから何年経った後でも遺産分割協議をすることは可能です。

2. 遺産分割協議が遅くなることのデメリット

遺産分割協議には期限が無いとはいえ、遺産分割協議が遅くなることによる現実的なデメリットもあります。

①遺産の範囲・当事者関係等が複雑になる

被相続人の死後何年も経つと遺産の所在や範囲があいまいになるという問題があります。
また、相続人が亡くなり、その相続人の相続人が代わって相続することになるなど、当事者関係もどんどん複雑になります。
こうした理由から、遺産分割協議が遅くなると手続きが煩雑になり、協議成立までにかかる時間も長くなりがちになってきます。

②相続税の延滞税が発生する

遺産の評価額が3,000万円近くになると考えられる場合は要注意です。遺産の金額が相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×相続人の人数)の金額を超えてしまうと、相続税申告が必要になるからです。

この相続税申告には遺言または遺産分割協議書が必要であり、被相続人が死亡したことを知った日(通常の場合は、被相続人の死亡の日)の翌日から10か月以内に申告・納税しなければなりません。納期限までに納税できなければ延滞税を支払うことになります。

ただし、納期限までに遺産分割協議が成立しない場合は、とりあえず法定相続分で遺産を取得したものとして相続税申告・納税し、遺産分割協議成立後に修正申告をすることも可能です。その場合も取得する遺産の評価額によっては延滞税が発生する可能性があります。

③不動産の名義変更ができない

遺言や遺産分割協議書、調停調書、審判書がいずれも無い場合、被相続人名義となっている不動産の名義を特定の相続人名義に変えることができません。

例外的に、遺産分割協議書等が無くても「各相続人の法定相続分に応じた共有持分」で相続登記を行うことはできます。

しかし、一度この登記をしてしまうと、遺産分割等を行って後で変更する際に余計な費用・手間が発生する可能性が高いです。
場合によっては、他の相続人に対する贈与であるとして贈与税が課税される可能性もあります。そのため、売却等を目的として不動産を法定相続分どおりの持分で共有するとき以外は、法定相続分による相続登記はあまり使い勝手が良くないといえます。

④預貯金口座や証券口座の相続手続

遺産分割協議書が必要書類として挙げられていることが多いです。
ただし、遺産分割協議書無しで手続きができる場合もあります。金融機関によって扱いが違うため、直接確認することをおすすめします。

⑤自動車の名義変更

複数の相続人のうち一人が単独で自動車を相続し、名義変更をする場合には、遺産分割協議書が必要となります。

3. 【法改正】遺産分割が遅くなることのデメリットが増える?

今後、以下の改正法が施行されます。相続人によっては遺産分割協議が遅くなることのデメリットが大きくなる可能性があります。

(1) 被相続人死亡から10年経過すると原則特別受益・寄与分が主張できなくなる【2023年4月1日施行】

①特別受益・寄与分を主張したい場合は注意

被相続人の死亡から10年経過後にする遺産分割は、法定相続分(又は指定相続分)によることになります。つまり、原則特別受益・寄与分が主張できません。
施行日より前に被相続人が死亡した場合の遺産分割についてもこのルールが適用されます。

特別受益

相続人が被相続人から生前贈与・遺贈などによって受けた利益を、「相続分の前渡し」として相続財産に加算して相続分を計算する制度です。つまり、特別受益があると判断されると、特別受益を受けた相続人は新たに分配される遺産が少なくなります。

寄与分

被相続人の財産の維持・増加に「特別の寄与」をした相続人がいる場合に、寄与にあたる相当額をその相続人に取得させる制度です。つまり、寄与分があると判断されると、分配される遺産が多くなります。

自分に寄与分があると考えられる場合や、自分以外の相続人に特別受益があると考えられる場合には、相続開始後10年以内に遺産分割協議を行ったほうが得をする可能性があるということです。

②期間制限の例外

この10年の期間制限には例外があります。

ⅰ 相続開始時から10年経過時または改正法施行時から5年経過時のいずれか遅い時までに、相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしたとき

ⅱ 10年の期間(相続開始時からの10年の期間満了後に改正法施行時からの5年の期間が満了する場合には、改正法施行時からの5年の期間)満了前6か月以内に、遺産分割請求をすることができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、当該事由消滅時から6か月経過前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしたとき

つまり「どうやら話し合いでは解決しなそう、どうせ調停になるなら特別受益・寄与分を主張したい」と思った場合は、死亡後10年以内に家庭裁判所に遺産分割の請求をするほうがよいということになります。
上記2つの場合については、遺産分割において特別受益・寄与分が考慮されうるようになります。

③話し合いで解決する場合には期間制限は関係ない

さて、特別受益・寄与分についてこうした期間制限がかかるのは、あくまでも裁判所の手続きで遺産分割を行った場合の話になります。

相続人同士の話合いによる遺産分割では、合意さえできればどのような分け方も自由です。そのため、10年を経過していても特別受益(と考えられる分)や、寄与分(と考えられる分)を考慮して分けることもできます。

ただし、話し合いの中でも「もし調停になったとしたら特別受益は考慮されない」という事実は影響をもってきますので注意は必要です。

 

(2)相続登記が義務化される【2024年4月1日施行】

①相続登記は3年以内に!

相続によって不動産の所有権を取得した相続人は、その取得を知った日から3年以内に所有権移転登記をしなければならなくなります。「正当な理由」が無いのにこれに違反した場合、10万円以下の過料が科せられる能性があります。

先述のとおり、所有権移転登記をするには遺言か遺産分割協議書が必要です。そのため、遺産分割協議成立が遅くなると、登記申請も遅くなり過料を課せられる可能性が出てきます。

②遺産分割協議が間に合わないときは「相続人申告登記」

しかし、1人の相続人が急いでいるのに、他の相続人が非協力的で遺産分割協議が進まないといったこともあります。そのような場合にまで過料を科すのは不合理です。

そのため、改正に合わせて「相続人申告登記」という新制度ができます。

相続人申告登記とは、登記簿上の所有者が亡くなったとき、相続人が登記官に対して、自分が相続人であることを申し出ることで登記がされる制度です。

他の相続人の協力は不要です。相続人申告登記をすることで相続登記の申請義務を果たしたことになり、過料も科せられなくなります。

ただし、相続人申告登記をした人は、その後の遺産分割協議でその不動産の所有権を取得したときは、遺産分割の日から3年以内に所有権移転登記を申請しなければなりません。

これに反するとまた10万円以下の過料が科せられる可能性がありますので注意しましょう。

4. 相続は早めに解決しましょう!

遺産分割協議が遅くなると上記のようなデメリットが生じます。
「忙しいし、面倒だから…」と思って放っておくとより一層面倒になってしまうのは、相続に限らず世の常です。

遺産分割に限らず、相続の問題でお悩みの方がいらっしゃいましたら、弊所の弁護士までお早めにご相談ください。

(文責:弁護士 辻佐和子)