事実審口頭弁論終結時(直近)の時価となります。
1. 価額弁償
遺言書により不動産を取得した相続人に対して遺留分減殺請求をした場合、遺言書により遺産を取得した相続人は、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いをする必要があります。これを価額弁償といいます。
2. 当事者間で合意ができる場合
不動産の額について当事者間で合意ができる場合には、当事者が合意した金額を基準として金銭の支払額を決めることができますので問題はありません。裁判所で不動産の鑑定をすることにより不動産の時価を定める場合、多額の時間と多額の費用がかかってしまうことが多いため、可能であれば当事者間での合意を目指すことがよいかと思います。
3. 当事者間で不動産の金額について合意ができない場合
当事者間で不動産の金額について合意ができない場合、価額弁償の金額を決める基準時は直近の不動産の時価を基準にすることとなります。
遺留分減殺請求の場合、遺留分の割合を決める際の不動産の評価の基準時は相続開始時(被相続人死亡時)である一方、価額弁償の抗弁の基準時は事実審の口頭弁論終結時(直近)となりますので、両者は異なってきます。
期間がそれほど経過していない事案の場合には大きな問題とはなりませんが、故人がお亡くなりになってから調停・裁判などで長期間時間が経過した場合には、2つの時点で時価が変わっている可能性もあります。
4. その他
- 価額弁償の抗弁が提出された場合の遅延損害金の起算日は価額弁償の抗弁を提出した日の翌日となります。
- 価額弁償の抗弁は弁償をする旨の意思表示だけではなく、実際に弁済の提供をなすことが必要です。「弁済の提供」となるかどうかは具体的な事案によって異なりますが、書面で価額弁償の通知をするのみではなく、実際に金銭があることを示すことが一般には必要ではないかと思います。
5. 結論
遺留分減殺請求に対して価額弁償の抗弁を出した場合の価額算定の基準時は口頭弁論終結時となります。
参考判例 最高裁判所昭和51年8月30日判決
「価額弁償における価額算定の基準時は現実に弁償される時であり、遺留分権利者において当該価額弁償を請求する訴訟にあっては、現実に弁償される時にもっとも接着した時点としての事実審口頭弁論終結の時であると解するのが相当である」
(監修者:弁護士 大澤一郎)