抵当権付債務の種類によって異なりますので個別の検討が必要です。被相続人の債務負担の有無及び担保不動産が相続財産に含まれるかどうかによって以下の4パターンに別れます。
(回答:弁護士 大澤一郎)
被相続人が債務を負担し、かつ、担保不動産が相続財産中に存在する場合
不動産の評価の段階で控除するか、債務として控除するかは別として、遺留分の算定に当たり控除して計算するということになります。
被相続人が債務を負担し、かつ、担保不動産が相続財産でない場合
抵当権付債務の額は控除して計算します。最終的には被相続人が債務を負担するという結論自体は担保の有無にかかわらず関係ないからです。
被相続人が債務を負担せず、かつ、担保不動産が相続財産である場合
原則:抵当権付債務の額は控除しません。抵当権があるからと言ってすぐに抵当権が実行されるとは限らないことがその理由です。
例外:抵当権が実行される確率が極めて高く、かつ、主たる借主に対して抵当権が実行された分の損害を求償(請求)することができないような場合には、債務額として控除できると考えられます。
被相続人が債務を負担せず、担保不動産が相続財産でない場合
当たり前ですが、何も問題はありません。控除するかどうかという問題は発生しません。
その他
抵当権付債務と遺留分の算定は場合分けが複雑で非常に難しい問題です。
また、関連する問題として、(1)保証債務と遺留分の問題、(2)連帯保証債務と遺留分の問題、(3)相続する債務について相続人間での内部負担割合をどうするか等の問題もあります。
事情によって結論が全く逆になるということもありますので注意が必要です。
関連事項
抵当権とは、不動産に設定された担保権です。よく「不動産を担保に入れる」などといいますが、それが抵当権です。抵当権には、普通の抵当権と根抵当権という2つの種類があります。
普通の抵当権は、特定の債権(貸金等)だけを担保するものです。他方、根抵当権は、取引関係全体から発生する債権(例えば複数の銀行からの借入債務全て)を担保するもので抵当権より効力が強いです。
いずれの種類であるかによって遺留分との関係で結論は変わりませんが、根抵当権の対象となる債権は幅広いので見落としをしないように注意が必要です。例えば、主たる借主としての債務だけではなく、連帯保証人としての債務についてもまとめて根抵当権の対象となることがあります。
(文責:弁護士 大澤一郎)