遺産分割が確定するまでは通常請求はできません。
(回答:弁護士 大澤一郎)
問題の背景
故人がお亡くなりになった際、故人が所有していた不動産に無償で居住していた相続人がいた場合、他の相続人は当該相続人に対して明け渡し請求、賃料相当の金銭の請求などができるかどうかが争いとなることがあります。
明渡請求について
一般に明け渡し請求はできないと言われています。
相続財産を占有する相続人の共有持分権が他の相続人よりも少なくても、各相続人は自己の持分に応じて共有物である不動産を使用・収益する権限を有しています。
そのため、多数の持分権者が明け渡しを求めるためには明け渡しを求める理由について積極的に証明することが必要と言われています。(最高裁判所昭和41年5月19日判例9)
賃料相当の金銭の請求について
相続人の1人だけが不動産を利用していて、他の相続人が不動産を利用していなかった場合、相続人間で不公平が生じることがあります。
このような場合、賃料相当額の請求を他の相続人はできるのでしょうか。
最高裁判所の判例では、故人と同居していた相続人の事案について、故人がお亡くなりになったあと遺産分割が最終的に確定するまでの間は、同居の相続人がただで建物を利用する旨の合意があったものと推測し、故人死亡後遺産分割確定までの間、同居の相続人を借主・他の相続人を貸主とする使用貸借契約があると考えた事案があります。(最高裁判所平成8年12月17日判決)
他方、事案によっては無償使用の合意がないということで賃料相当の金銭の請求が認められている事案もあります。
あくまで相続人間の公平を踏まえて個別の事情ごとに決定するというのが裁判所の考え方です。
経費について
不動産を管理するためにかかった経費についても同じような問題が発生することがあります。
居住する相続人が経費を全額負担するのが相当であると判断される事案もありますし、他方、法定相続分の割合で経費を負担することが相当と判断される事案もあります。
無償で建物を使用している場合には、経費も建物を利用している相続人が負担すると判断される確率が高いのではないかと思います。
結論
- 他の相続人に対する明け渡し請求→明け渡しを求める正当な理由がなければできない。
- 金銭の請求→故人と同居していた相続人には原則請求できない。故人と同居していない相続人については相続人間の公平に鑑み事案により請求できる場合と請求できない場合がある。
(文責:弁護士 大澤一郎)