- 不動産については、登記簿謄本、名寄帳を取得することが考えられます。
- 預貯金については、取引銀行に残高証明、取引履歴を申請することが考えられます。
(回答:弁護士 今村公治)
他の相続人が遺産(相続財産)を明らかにしてくれない
遺産分割協議を成立させるためには、遺産の範囲を確定する必要があります。
そこで、通常は、亡くなった方と同居していた人など、遺産を把握している人に遺産目録を作成してもらいます。
しかし、遺産を管理していた人が非協力的である場合、どんな遺産があるのかを把握することは簡単ではありません。
“母親が亡くなり、弟と遺産分割協議をすることになったところ、亡くなった母親と同居していた弟が遺産の内容を明らかにしてくれない”
このように相続人間で遺産を巡った対立がある場合、遺産の調査方法として以下のような方法が考えられます。
不動産については“登記簿謄本”、“名寄帳”
亡くなった方が所有していた不動産の地番・家屋番号がわかっている場合には、登記簿謄本を取寄せます。登記簿謄本は、誰でも申請することができます。
当該不動産のある法務局に対して申請します。これによって、当該不動産が誰のものであるのか権利関係がはっきりします。
また、亡くなった方が所有していた不動産があると考えられる市区町村に申請をして、不動産の名寄帳を取寄せることも考えられます。
名寄帳とは、当該地方自治 体内で、固定資産税の課税対象となっている土地・家屋についての所有者ごとの一覧表です。
これによって、亡くなった方が所有していた不動産を一挙に知ることができる場合があります。
預貯金については“取引履歴”
預貯金は、金融機関の支店までわかれば、死亡日の残高証明、取引履歴を申請することができます。
取引履歴から、亡くなった方の預貯金が誰かに勝手に使われていないかなどの情報を得ることができます。
相続人の1人は、金融機関に対して、被相続人名義の預金口座の取引経過の開示を求める権利を単独で行使できます(参考判例:最高裁判所第1小法廷平成21年1月22日判決)。
また、銀行名はわかるが支店名がわからない場合、相続税申告のために必要であるなどの事情を説明すると、金融機関によっては、他の支店にある預金口座を教えてくれることもあります。
その他
亡くなった方の所得税の申告書、株主に対する配当通知などの財産に関係する書類や、相続税の申告書などの書類から遺産が判明することがあります。
また、他の相続人が非協力的な態度をとり続け、遺産の把握が困難な場合、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立ててみることも考えられます。
遺産の存在を疑わせるような事情がある場合、遺産分割調停の中で、他の相続人に対して遺産に関する質問をして、回答を求めることができます。裁判所に遺産の開示を促してもらうことも考えられます。
事前の対策
相続に関して相続人間で争いが生じた後は、他の相続人から遺産の内容をききだすことは簡単ではありません。
相続が発生する前、あるいは相続に関してもめ事が生じる前に、遺産に関する事情を聞いておくのが一番かと思います。
なお、遺産の他にも、相続人の範囲の調査など、相続案件では、各種調査が必要となります。
(文責:弁護士 今村公治)