最終更新日:2026年8月3日
遺産の調査では、①調査事項の洗い出しと②スケジュール作成が重要です。
この記事では、ご家族が亡くなって間もない方に向けて、遺産をどのように調査すればよいかという点や、効率的に調査を進めるためにはどうすればよいかという点を解説します。
遺産の調査に関する問題は慎重な検討が必要です。悩んだら、相続に詳しい弁護士へのご相談をおすすめします。
遺産(相続財産)の調査はなぜ必要?
遺産調査は次の3つの目的のために行います。
- ① 相続するか放棄するかを判断するため
- ② 遺産分割を進めるため
- ③ 正しい額の税金を納めるため
① 相続するか放棄するかを判断するため
相続人は、故人(被相続人)が亡くなってから3か月以内に、遺産を相続するか、放棄するかを選ばなければなりません。
遺産には、預貯金や不動産などの資産だけでなく、借入やローンなどの負債も含まれます。そのため、相続と放棄の選択は、資産額と負債額のどちらが大きいかを比較して判断するのが通常です。
遺産調査が不十分だと、額の大小を正確に比較できず、相続すべきか、放棄すべきかの判断がつきにくくなります。
② 遺産分割を進めるため
遺産分割は、当事者同士での話し合い(遺産分割協議)や裁判所での手続き(遺産分割調停・審判)を通して行われます。いずれの手続きにおいても「何が遺産に含まれるか(遺産の範囲)」が分からなければ分割の話を進めることはできません。
さらに、遺産分割終了後に不動産や有価証券など価値の高い遺産が見つかると、手続きがやり直しになってしまう可能性があります。
遺産分割手続きを円滑かつ効率的に進めるために、遺産の調査は必要不可欠です。
③ 正しい額の税金を納めるため
故人の所得税についての準確定申告は、故人が亡くなったことを知った日の翌日から「4か月以内」に行わなければなりません。
申告額が過小だと加算税や延滞税を課され、過大だと税金を払いすぎてしまうリスクがあります。
相続税は、故人が亡くなったことを知った日の翌日から「10か月以内」に納めなければなりません。
相続税の基礎控除額は「3000万円+600万円×法定相続人の数」で計算され、この額を上回る資産があると納税義務を負います。
余分な出費を防ぐために、遺産の調査は非常に重要です。

遺産調査の流れ
遺産調査の時間は非常に限られているため、効率的に調査を行いましょう。
故人が亡くなったら、まずは自宅内の書類や遺言書を見て、どのような資産・負債の調査が必要か、具体的にどのように調査を行うか、調査事項と調査方法を洗い出します。
その後、それぞれの遺産の調査にかかる時間を見積り、調査のスケジュールを立てます。
遺産ごとの調査方法
預貯金
預貯金額を知るには、故人名義の通帳やキャッシュカードが手がかりになります。通帳に直近の記録が印字されていないときや、通帳がなくキャッシュカードしか手元にないときは、金融機関から取引明細書や残高証明書を発行してもらいましょう。
取引明細書や残高証明書の手続費用は数千円程度で、相続人であれば誰でも取得可能です。申請から約2~3週間で届くことが多いです。
相続人であることを証明するために、戸籍謄本や印鑑証明書などの提出を求められることが多いため、申請前に書類をきちんとそろえておく必要があります。
取引の明細が分かったら、具体的にどのような取引があったかを確認しましょう。
家賃、光熱費、生活費の引き落としや年金の受給など、本来履歴が残っているはずのお金の動きが確認できない場合には、他にも所有口座がある可能性が高いです。
不動産
故人が、一戸建て住宅や分譲マンションに居住していたり、賃貸物件を管理していたりしたときには、登記簿謄本や公図、名寄帳、固定資産納税通知書を確認し、所有名義人が故人になっていないか調査しましょう。
登記簿謄本と公図
登記簿謄本と公図は、法務局から取得することができます。郵送やオンラインでの手続きにも対応しており、費用は一通数百円です。
また、登記簿謄本には地番と所有者が、公図には土地の区画と地番が書かれており、遺産対象の土地の範囲を正確に把握することにも使えます。故人が土地を所有している可能性があるときは、登記簿謄本と公図の両方を取り寄せることをおすすめします。
名寄帳
名寄帳は市区町村役場の資産税課で取り寄せることができ、費用は1通あたり数百円程度です。
故人が所有している不動産の一覧が記載されており、故人の所有不動産を一挙に把握するのに便利です。
しかし、市区町村単位での所有不動産しか記載されないため、不動産を複数所有している場合には複数の市区町村の名寄帳を取得しなければならないケースがあります。
所有不動産記録証明制度
所有不動産記録証明制度とは、故人が所有権の登記名義人として記録されている不動産について、一覧的にリスト化して証明書として交付する法務局の制度です。
特定の市町村のみでなく、全国にある故人の不動産を調査できます。
不動産の評価額の調査
不動産を調査した後は、評価額も調査しましょう。評価額の算出方法には、路線価、公示価格、固定資産税評価額、時価など様々な方法があります。
まずは近くの不動産会社に見積もりを依頼してみることをおすすめします。
有価証券
株式や社債、投資信託などの有価証券は、預貯金口座の取引履歴や郵便物、パソコン・スマートフォン内のメール履歴を確認しましょう。証券会社への出金や配当金の振り込みの履歴、株主総会招集通知書や取引残高報告書などが残されていることがあります
また、証券保管振替機構に対し、証券口座の有無について照会をかけることも有効です。照会費用は数千円です。
取引先金融機関が分かったら、残高明細書を取り寄せましょう。
デジタル遺産
デジタル遺産の意義と放置のリスク
デジタル遺産とは、故人のスマートフォンやパソコン、タブレットといった電子機器本体のストレージに保存された写真、文書などのオフラインデータと、暗号資産やオンラインストレージサービス(Googleドライブ、iCloudなど)に保存されたデータなどのオンラインデータを合わせた総称を意味します。
現状、お亡くなりになった方が多数のデジタル遺産を所有しているケースは多くありませんが、近い将来問題となる可能性が高い遺産です。
比較的調査に手間がかかる遺産ですが、決して放置することはできません。
放置するリスクとしては、次のようなものが考えられます。
- ① 金銭的価値の高い暗号資産を見落とし、分割のとき相続人間でトラブルになる
- ② 亡くなった後もサブスクリプションサービス利用料の課金が継続し、遺産が減少する
- ③ オンラインストレージサービスに保存された写真や書類、楽曲が消去されてしまう
- ④ アカウントを乗っ取られ、詐欺などの犯罪に利用される
遺産分割の対象となるデジタル遺産
データ自体は、法律上遺産に含まれないのが原則です。
しかし、写真や文書、楽曲のデータは、事実上遺産に含まれることがあります。そのほか、暗号資産やサブスクリプションサービスについても、実務上遺産に含まれると考えられています。
SNSアカウントやメールアカウント、マイル・ポイント、ウェブサイト、電子書籍などのデータについては、遺産には含まれないことが多いです。
ただし、サービスの利用規約に「相続人にデータを開示する・引き渡す」手続きが書かれている場合には、事実上相続人がそのデータを承継できる可能性があります。
デジタル遺産の調査方法
まずは故人のスマートフォン、パソコン、タブレット内のアプリケーションやブラウザの閲覧履歴・ブックマーク、メール送受信履歴、エンディングノートなどを調査し、デジタル遺産の手がかりを探しましょう。
暗号資産やサブスクリプションサービスなど、金銭の動きがある遺産については、預貯金口座の取引履歴やクレジットカードの利用明細が手がかりになります。
また、オンラインデータについては、サービスの利用規約をチェックして、相続人がデータを引き継ぐことができないか確認しましょう
生命保険
故人のかばんなどの中に保険証券や保険料の領収書が入っていないか、預貯金口座の取引履歴の中に保険料の引き落とし履歴がないかを確認しましょう。亡くなる直前まで会社に勤務していた場合には、生命保険料が控除された記録が残っていることもあります。
保険会社が分かったら、契約内容を問い合わせましょう。故人の死亡に伴う保険金や解約返戻金が「遺産」になることがあります。
ローンや借金
故人の財布にクレジットカードや消費者金融のカードが入っていないか、通帳や口座の取引履歴に借入・返済の記録が残っていないかをチェックします。
併せて、信用情報機関(CIC、JICC、KSC)に取引履歴の照会をかけましょう。法定相続人であれば手続きができ、費用は数千円です。
また、金融機関だけでなく、個人から借りたお金も遺産分割の対象です。親族や友人から話を聞くだけでなく、故人の手帳や日記に借入の記録が残されていることがあります。

調査をスムーズに行うポイント
相続するかどうか判断するための期間は、わずか3か月しかありません。遺産の種類によっては、照会結果の開示まで1か月以上かかることもあります。
遺産の調査を計画的かつスピーディーに終わらせるために重要なポイントは次の3つです。
- ① 最初は預貯金口座の取引履歴を取り寄せる
- ② 照会に必要な書類をまとめて発行する
- ③ 遺産のリストを作成する
① 最初は預貯金口座の取引履歴を取り寄せる
取引履歴には様々なお金の動きが詳細に記載されているため、故人が認識していなかった資産や負債を見つける大きな手がかりになります。
② 照会に必要な書類をまとめて発行する
銀行口座・各種金融機関の取引履歴や不動産の名寄帳の取り寄せなどの際には、戸籍謄本、印鑑証明書などの書類を提出するよう求められることがあります。
各種機関のWebサイトから必要書類を確認の上、照会に必要な書類はまとめて発行しておくと時間を節約できます。
③ 遺産のリストを作成する
調査した遺産をリスト化して整理しておくと、相続するか放棄するかの選択や遺産分割手続をスムーズに進められます。他の相続人と情報共有するときにも便利です。
遺産の範囲に争いがあるとき
「どの財産が遺産に含まれるか」という遺産の範囲に争いがあると、遺産分割手続きを進めることができません。
遺産の範囲を確定させる方法には、主に次の4つがあります。
- ① 相続人間での話し合い
- ② 遺産分割調停
- ③ 遺産分割審判
- ④ 遺産確認の訴え
① 遺産分割協議(相続人間での話し合い)
裁判所を介さず相続人同士で直接話し合いを行います。
② 遺産分割調停
裁判所に遺産分割調停を申し立て、その中で話し合いを行います。
③ 遺産分割審判
遺産分割調停で話し合いがまとまらない場合、裁判官が遺産分割の方法を決定(審判)します。
ただし、何が遺産に含まれるか自体に強い争いがある場合、審判内で結論を出すことは難しく、原則として裁判(④遺産確認の訴え)で解決する必要があります。
④ 遺産確認の訴え
遺産の範囲を争っている相続人を被告として、「この財産は遺産に含まれる」ことを確認するための訴訟を起こします。遺産の範囲について争いがある場合の最終的な解決方法です。
遺産確認の訴えで遺産の範囲を確定させた後、 再度①遺産分割協議(相続人間での話し合い)、②遺産分割調停、③遺産分割審判のいずれかの段階で遺産分割の問題に決着をつけます。
なお、遺産確認の訴えは長期化しやすく、たくさんの時間や費用がかかります。手間や費用をなるべく抑えて早期解決を目指したい場合は、①遺産分割協議(相続人間での話し合い)、②遺産分割調停(裁判所での話し合い)、③ 遺産分割審判の段階で何らかの合意をして、合意内容を書面に残しておくのがおすすめです。

よくあるご質問
どんな財産が遺産になる?
現金や不動産、株式などの有価証券だけでなく、借金やローンなどの負債も遺産に含まれます。また、賃借権(家を借りる権利)や著作権などの法的権利も相続の対象です。
一方、親族から生活の援助を受ける権利や生活保護を受給する権利、離婚前の財産分与請求権など、故人だけが行使できる権利については遺産にはなりません。データも原則として遺産にはなりません。
調査にかかる期間は?
1~2か月程度かかることが多いです。
通帳やキャッシュカードなど調査の手がかりとなる資料が少なかったり、不動産が遠方にあったり、他の相続人が調査に非協力的だったりすると、さらに時間がかかることがあります。スマートフォンやパソコンのロック解除に時間を要することもあります。
相続放棄の3か月の期間に間に合わないときはどうする?
相続放棄などの熟慮期間(3か月)の延長申請を検討しましょう。
申請が認められれば、状況に応じた期間(数か月程度)の延長が可能です。それでも間に合わない場合は、さらに再延長を申請できるケースもあります。
延長が認められるかどうかやその期間は、裁判官が決定します。
経験上、相続財産や相続人が多く調査に時間がかかる場合、財産が国外にある場合、故人と疎遠で死亡を知るのが遅れた場合などは、延長が認められやすい傾向にあります。
故人の口座から勝手に引き出されたお金は取り戻せる?
取り戻せる可能性があります。
無断引き出しがあるかを確認するために、まず故人名義の口座通帳・キャッシュカードを手がかりに、金融機関から取引履歴を取り寄せます。
故人の生活費としては高額すぎる引き出しがあると、本人の同意なく引き出されている可能性があります。
不審な引き出しが見つかったら、本人の同意があったのか、どういう意図で引き出されたのか、当時口座を管理していた人に説明してもらいましょう。
調査に協力しない相続人がいたらどうする?
銀行の取引履歴や不動産の登記簿謄本、名寄帳の取り寄せ、信用情報機関への照会などの手続きは、法定相続人であれば、他の相続人の同意がなくとも単独でできます。
そのため、調査すべき事項が分かっている場合には、一部の相続人が非協力的であっても、遺産調査に大きな支障は生じにくいです。
一方、特定の相続人が故人の財産を独占して調査に協力してくれない場合、遺産の内容を知る手がかりがなく、「そもそも何を調査すればいいか分からない」状況に陥り、調査に大きな支障が生じかねません。
このような場合には、家庭裁判所へ遺産分割調停の申し立てを検討します。
中立的立場にある調停委員が相手を説得することで、財産を任意に開示してくれる可能性が高まります。
遺産分割後に新たに財産が見つかったらどうする?
新たに見つかった財産だけを対象に、再度遺産分割を行うのが一般的です。
見つかった財産が不動産や預貯金などの資産だった場合、①見つかった財産だけについて遺産分割を行う、②遺産分割全体をやり直す、という2つの選択肢があります。
一度決まった遺産分割を蒸し返すと、解決まで余計に時間や手間がかかってしまうため、通常は①見つかった財産だけについて遺産分割を行う方法を採用することが多いです。
ただし例外として、「見つかった遺産が非常に高額で、その存在を知っていたら当初の条件で分割に合意することはなかった」といえる場合には、②遺産分割全体をやり直すケースもあります。
このような事態を防ぐためにも、最初に遺産分割を行う段階で、「後から財産が見つかった場合はどう分けるか」を事前に話し合い、遺産分割協議書にしっかり記載しておくことが大切です。
なお、新たに見つかった財産が借金(債務)だった場合、原則として遺産分割協議の対象とはならず、各相続人が法定相続分に応じて引き継ぐことになります。
ただし、すでに相続放棄をしている場合は借金を支払う必要はありません。借金の取り扱いは複雑になるため、発覚した時点で弁護士へご相談ください。
まとめ:悩んだら弁護士に相談
相続はいつ発生するかわからない上、その手続きには厳しい期限が設けられています。特に、不動産や株式、デジタル遺産を数多く所有したり、複数の金融機関からの借入があったりすると、状況を把握するだけでも大きな手間と時間がかかります。
「まだ時間はあるから大丈夫」と放置してしまうと、あっという間に相続放棄の申請期限(3か月)が経過して、望まない形で遺産を引き継いでしまうリスクがあります。
取り返しがつかない事態になる前に、まずは弁護士にご相談ください。
当事務所では、これまで長年培った豊富な実績を活かし、お客様にとって円満で後悔のない解決を目指し、最後まで丁寧にサポートいたします。




