原則として、すでに作成された遺産分割協議書は有効なものとして、新たに発見された遺産についてのみ、改めて遺産分割協議を行うことになります。

基本的には成立した遺産分割協議はそのまま

遺産分割協議が成立した後に、新たに遺産が発見されることは少なくありません。

そもそも遺産分割協議をするのは、その財産を把握していた亡くなった方ではないので、相続人が全ての遺産を把握していることは少ないケースかと思います。

遺産分割協議を行うに当たっては、一般的に、遺産の範囲を確定して、遺産目録を作成します。ところが、遺産分割協議をした後になって、遺産目録から抜けている遺産が新たに発見されることがあります。

新たな遺産が発見された場合、すでに成立した遺産分割協議を無効として全遺産を再度分割するのか、新たに発見された遺産のみを分割すればよいのかが問題となります。

遺産分割協議書へ相続人全員の署名捺印が終わった後に、亡くなった方が昔使っていた預貯金通帳が後から出てきたり、証券会社から報告書が届いて証券口座があることがわかったということもあります。

また、地金や着物や茶器など亡くなった方の名義がない財産についても、後から亡くなった方の遺産だったとわかることもあります。

このように後から遺産が出てきても、基本的には既に成立した遺産分割協議はそのままです。後から遺産が出てきても、その新たに判明した遺産についてのみ、改めて遺産分割協議を行えば問題なく、既に成立した遺産分割協議を白紙にする必要がないためです。

上記のとおり、遺産分割協議後に新たな遺産が発見されてから対処することも可能ではあります。しかし、できれば面倒な手続きは避けたいものです。

まずは、遺産分割協議を行う際に、しっかりとした財産調査を行うことが大切です。また、遺産分割協議の際に、新たに発見された遺産の取得者や、取得の割合等を事前に決めておくこともできます。

場合によっては、遺産分割協議のやり直しが必要な場合も

ただし、新たに発見された遺産について、特定の相続人が隠していた財産である場合や、その遺産の価値が遺産全体の中で大きな割合を占める場合などには、例外的に、過去の遺産分割協議が無効となって、遺産分割協議全体のやり直しとなることがあります。

未分割の遺産のみを分割すればよい場合

新たな遺産が見つかるたびに遺産分割協議のやり直しが必要となれば、相続人に無駄な労力を強いることになるうえ、遺産分割協議で決めた法的権利関係が不安定なものとなってしまいます。

そこで、遺産分割協議が成立した後に、新たな遺産が見つかった場合、原則として、すでになされた遺産分割協議を有効として、新たに見つかった遺産に関してのみ、改めて遺産分割協議を行えばよいと考えられます。

全ての遺産について分割し直す必要のある場合

新たに発見された遺産の価値が大きく、相続人が当該遺産の存在を知っていれば遺産分割協議に合意することはなかっただろうといえるような場合には、相続人の一人が遺産分割協議に錯誤があったとして錯誤無効(民法95条)を主張することで、すでに成立した遺産分割協議が無効となる可能性があります。

もっとも、遺産が相続財産のうち重要な要素を占めるようなものであっても、相続人全員の合意があれば、新たに判明した遺産だけを分割すればよいと考えられます。

まとめ

  • 遺産分割協議にあたっては、十分に遺産を調査しましょう。
    やはり一度の遺産分割協議で全ての遺産について分割協議を行ったほうがいいです。相続税申告にも関わってくるので、早め早めの遺産調査の始動が必要になります。
  • 遺産分割協議書には遺産目録を添付する等として、どの遺産を対象に分割協議をしたのかを明確にしましょう。
  • 遺産分割協議書には、「遺産目録に記載のない遺産や新たに判明した遺産」について、どうするのか記載しましょう。
    改めて協議をする場合には「別途協議をする」等と記載しましょう。
  • 新たに遺産が判明した場合には、速やかに相続人に連絡し、その遺産を調査し、改めて遺産分割協議をしましょう。

遺産分割協議書作成は、一見すると簡単なように思えますが、将来の無用な紛争なども考慮して専門家に作成してもらうことをおすすめします。

参考裁判例

全ての預貯金や株式の内容を知らないまま遺産分割協議をした後に、新たに遺産が判明し、既に行った遺産分割協議が錯誤無効となった裁判例

東京地裁平成27年4月22日判決(平成25年(ワ)第8188号)

遺産分割協議は通謀虚偽表示にあたり無効となった裁判例

東京地裁平成28年12月28日判決(平成25年(ワ)第12900号)

脱税目的(意図的に遺産分割協議対象から一部の遺産を除外)の遺産分割協議について無効とならなかった裁判例

東京地裁平成29年2月22日判決(平成27年(ワ)第8001号)

(監修者:弁護士 大澤一郎)