特別受益対象財産を遺留分の計算の基礎となる財産に含めて計算します。 (持ち戻し免除はしない扱いが一般的です。)
(回答:弁護士 大澤一郎)
特別受益について
特別受益とは、(1)遺贈、(2)婚姻若しくは養子縁組のための贈与、(3)生計の資本としての贈与、のことを言います。これらは遺産の前渡しのため、遺留分の計算の基礎となる財産に含めて計算します。民法第903条第1項に定められた制度です。実際の紛争では、特別受益に該当する贈与であるかどうかが深刻な争いになることがあります。
持ち戻し免除の意思表示について
持ち戻し免除の意思表示とは、故人が生前に、上記の特別受益について遺産分割の際には考慮しなくてよいという意思表示のことです。民法第903条3項に定められています。そして、遺留分の算定の際には、持ち戻し免除の意思表示は一切考慮しないという扱いが一般的です。
裁判所でも「民法第903条の定める相続人に対する贈与の価額は被相続人が持ち戻し免除の意思表示をしている場合であっても同意思表示は無効であるとしてこれを考慮することなく持ち戻しを行い、民法第1030条の定める制限なしに遺留分算定の基礎となる財産の価額に算入すべきである」と判断されています。
そのため、遺留分との関係では持ち戻し免除の意思表示の点が大きな問題となることはありません。(他方、遺産分割の場合には持ち戻し免除の意思表示の有無、特に黙示の持ち戻し免除の意思表示の有無が大きな争いとなることがあります。)
なお、遺留分と特別受益、遺留分と持ち戻し免除の意思表示の関係については、事案によってはまだ争いが残っていると思われます。 そのため、上記見解は現在の裁判所の判決にしたがった考え方ですが、これとは異なった考え方を主張することも考えられます。
参考判例
- 最高裁判所 平成10年3月24日判決
- 大坂高等裁判所 平成11年6月8日判決
※持ち戻し免除について
持ち戻し免除の意思表示は格別の方式を問わないと言われています。一番確実なのは遺言書に記載しておく方法ですが、書面・口頭を問わず効果があります。
また、明示の意思表示ではなく、黙示の意思表示であったとしても効果があると言われています。
持ち戻し免除の意思表示があるかどうかは、贈与の経緯等を考慮した総合判断になりますので、過去の事実関係を丁寧に主張・立証してくことが必要です。
(文責:弁護士 大澤一郎)