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ご相談までの背景

姉小路 寛二郎さんが亡くなりました。その法定相続人は、姉小路 橙子さんとその間の子である雪平 妙椛さんと凩 茉利佳さんでした。

橙子さんと妙椛さんと茉利佳さんは、橙子さんが生前の寛二郎さんと居住していた寛二郎さん名義の土地家屋を橙子さんに単独取得させることで合意し、そのために妙椛さんと茉利佳さんは、寛二郎さんを被相続人とする相続放棄の手続をし、この相続放棄は家庭裁判所に受理されました。

相続放棄をすれば寛二郎さんの相続人は橙子さんだけになると考えてこの相続放棄の手続をしたのですが、実際には、この相続放棄の結果、妙椛さんと茉利佳さんは相続人ではなくなった一方、橙子さんに加え、寛二郎さんのおい・めいも相続人になりました。妙椛さんと茉利佳さんはこのことを後で知りました。

この相続放棄をなかったことにしたいと考えて妙椛さんと茉利佳さんは家庭裁判所に問い合わせましたが、家庭裁判所からは、弁護士に相談することを勧められました。

妙椛さんと茉利佳さんはいくつかの法律事務所に問合せをしましたが、相談自体を断られることもありました。

よつば総合法律事務所でご相談をお受けし、相続放棄の取消しの申述を行うことを提案しました。

錯誤を理由とする相続放棄の取消しの申述の手続は、後にお書きする理由のため前例はありませんでしたが、理屈が立たないとは考えにくく、相続放棄の取消しの申述が視野に入りました。

相続放棄の取消しの申述を行った結果、家庭裁判所に受理され、橙子さんと妙椛さんと茉利佳さんは事なきを得ました。

亡くなられた方
(被相続人)
・姉小路 寛二郎様(仮名・80代)
相続人 ・姉小路 橙子様
長女(相談者)・雪平 妙椛様(仮名・50代・流山市流山おおたかの森在住)
次女(相談者)・凩 茉利佳様(仮名・50代)
遺産の内容 土地家屋・預金

弁護士からのコメント

1. 民法改正前の状況

相続放棄の取消しの申述は民法で定められた法的手段ですが、かつては、錯誤を理由とする相続放棄の取消しの申述は認められていませんでした。錯誤による相続放棄は当然無効だから、取消しの余地はないというのがその理由でした。

2. 民法改正

ところで、民法が大幅に改正され、その改正法が令和2年4月に施行されたのですが、改正法では錯誤の効果は「当然無効」だったのが「取り消すことができる」に変わりました。そうすると、錯誤を理由とする相続放棄の取消しの申述も、理屈上可能とも考えられます。

しかし、当然ながら改正法の下で錯誤を理由とする相続放棄の取消しの申述がなされた前例はなくまたはあったとしてもごく少ないと考えられ、少なくとも公表されたものは見当たらなかったことから、取消しの申述を受けた家庭裁判所がどう判断するかの見通しは必ずしも明らかではありませんでした。

3. 重大な過失

問題点は、妙椛さんと茉利佳さんには重大な過失があったと家庭裁判所が判断してくる可能性です。重大な過失によって錯誤に陥ったときは、取消しの主張は許さないと民法が規定していますから、この点に関する主張を適切に行わなければなりません。

詳細は割愛しますが、この点の主張を丁寧に行った結果、家庭裁判所は妙椛さんと茉利佳さんによる相続放棄の取消しの申述をいずれも受理しました。

4. 所感

妙椛さんと茉利佳さんがこの相続放棄をしたのが改正民法施行後だったのは運が良かったです。

私はかつて家庭裁判所で家事事件を3年担当していましたが、相続放棄の取消しの申述を扱ったことは1度もありません。

これを機会に司法統計をみてみましたが、平成31年・令和元年度の相続の限定承認または放棄の取消しの申述がなされた件数は、全国でわずか79件で、令和2年度も87件でした。

弁護士にとっても決してありふれた法的手段ではありませんし、また施行されたばかりの改正法が大きな影響を及ぼしてきますから、相談自体を断る法律事務所があったとしても無理からぬことです。

相談を受けた弁護士が、改正民法の理屈のもとであれば錯誤を理由とする相続放棄の取消しの申述が成り立つ余地があると考えたことも、妙椛さんと茉利佳さんにとっては運が良かったです。

5. 最後に

最後になりますが、法定相続人が被相続人の配偶者と子や孫だけであるとき、遺産を被相続人の配偶者に集中させたいとお考えになることも一般にみられることですが、その手段として配偶者以外の法定相続人が全て相続放棄をする方法は多くの場合不適当ですから(被相続人の兄弟姉妹やおいめいが存命で、その方々が相続人になる場合が多いです。)、ぜひ熟慮なさっていただきたいと思います。

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