最終更新日:2026年9月1日

監修者
よつば総合法律事務所 弁護士 杉山賢伸

遺留分侵害額請求では、まず当事者間の協議や家庭裁判所の調停による解決を目指し、それでもまとまらない場合に裁判へ進むのが一般的な流れです。

裁判は、訴状を裁判所に提出することから始まり、決められた日に双方が主張と証拠を出し合いながら争点を整理し、最終的に和解または判決によって決着するという流れで進みます。

争点となりやすいのは、遺留分の算定基礎となる財産の範囲、生前贈与の有無やその評価額、不動産などの評価額、請求できる期限を過ぎていないかといった点です。

また、裁判所から届いた書類を放置しないこと、期限内に反論や証拠を提出すること、遺留分侵害額請求権には期限があることに注意が必要です。

遺留分とは

遺留分とは、一定の相続人に法律で保障された、最低限の遺産の取り分です。

被相続人(お亡くなりになった方)は、遺言や生前贈与によって、自分の財産を原則として自由に処分できます。しかし、特定の人に多くの財産が渡され、残された家族がほとんど財産を受け取れないと、その後の生活に大きな影響が出ることがあります。そこで法律は、配偶者や子、親などに遺留分を保障しています。

一方、兄弟姉妹には遺留分がありません。兄弟姉妹は、配偶者や子、親などに比べて被相続人との生活上の結び付きが弱く、相続によって生活を保障する必要性も低いと考えられているためです。

遺言や生前贈与によって遺留分が侵害された場合には、遺留分を侵害された相続人は、財産を受け取った人に対し、侵害額に相当する金銭の支払いを請求できます。これが遺留分侵害額請求です。

協議・調停・裁判の順番で手続きは進む

遺留分侵害額請求では、まず当事者同士で話し合う「協議」を行うのが一般的です。協議で解決できない場合は、家庭裁判所に「調停」を申し立てます。さらに、調停でも解決できない場合は、「裁判(訴訟)」によって解決を目指します。

協議は、当事者が決めた場所で行い、当事者間で直接話し合います。費用をかけずに始められますが、まとまらないことも多いです。

調停は、家庭裁判所で行い、裁判所の調停委員を交えて話し合います。中立な立場の第三者が間に入って解決案を探りますが、合意できなければ不成立で終了となります。

裁判は、地方裁判所などで行い、お互いが主張と証拠を出し合います。最終的には和解または判決で決着しますが、時間と費用がかかります。

なお、遺留分侵害額請求に関する訴えについては、裁判の前に調停を申し立てるのが原則です。

裁判のメリット

裁判には、協議や調停にはない大きなメリットが2つあります。判決で最終的に解決するという点と、法律のルールを基本にして解決できるという点です。

判決で最終的に決着する

協議や調停は、相手方が合意しなければ解決に至りません。

これに対し、裁判では、話し合いがまとまらない場合であっても、裁判所が判決という形で判断を示します。判決が確定すれば、遺留分侵害額請求が認められるかどうか、認められる場合の支払額はいくらかについて、法的な決着がつくことになります。

さらに、相手方が判決の内容に従って支払わない場合には、預貯金や給与、不動産などを差し押さえる強制執行を申し立てることもできます。もっとも、相手方に差し押さえるべき財産がなければ、判決を得ても直ちに回収できるとは限りません。

法律のルールを基本にして解決できる

相続に関する話し合いは、過去の不満や相続人同士のこれまでの関係が影響し、思うように進まないことが少なくありません。

この点、裁判手続では、遺留分の算定基礎となる財産の範囲、生前贈与の有無やその評価額、遺留分の割合といった争点について、法律と証拠にもとづく客観的な判断が示されます。

当事者間で感情的な対立が続いている場合であっても、法的な観点から冷静に解決を図ることができる点は、裁判手続の大きなメリットといえます。

裁判のデメリット

一方で、裁判には見過ごせないデメリットもあります。メリットとあわせて理解したうえで、裁判に進むかどうかを決めましょう。

自分の意見が通るとは限らない

裁判は、自分の主張が必ず認められる場ではありません。

主張を裏づける証拠が十分でなかったり、法律の解釈について見解が分かれたりすれば、望んだとおりの結果が得られないこともあります。

また、相手方が支払いの猶予を求め、裁判所がこれを認めることもあります。この場合、請求が認められたとしても、実際に支払いを受けられる時期は先に延びることになります。

裁判を起こせば必ず思いどおりの結果になるわけではない、という点は念頭に置いておく必要があります。

時間と手間がかかる

裁判は、解決までに一定の時間を要します。

当事者は、裁判が進むなかで、主張をまとめた書面や証拠をその都度提出しながら、争点を整理していきます。とりわけ、不動産や非上場株式の評価が争われる場合には、専門的な資料や鑑定が必要となり、審理が長期化することもあります。

また、戸籍や遺言書、預貯金の資料、不動産の資料、生前贈与に関する資料など、主張を支える資料を集める手間も生じます。裁判に進むかどうかを判断する際には、こうした時間や準備の負担をあらかじめ見込んでおくことが大切です。

裁判の手続きの流れ

裁判に進むと決めたら、次に気になるのは実際の手続きです。裁判は、法律で決められた手順に沿って進みます。申立てから決着までの流れを、順番に確認しましょう。

裁判の申立て

遺留分侵害額請求の裁判を起こす場合、まず確認すべきなのは、どの裁判所に訴状を提出するかという点です。なお、裁判を起こすことを、法律上は「訴えの提起」といいます。

請求額が140万円以下であれば簡易裁判所、140万円を超える場合は地方裁判所に訴えを提起するのが原則です。地域については、相手方の住所地、請求する側の住所地、相続開始時における被相続人の住所地などを管轄する裁判所が候補となります。どの裁判所に訴えを提起できるかは事案の事情によって異なるため、あらかじめ確認しておく必要があります。

提出先の裁判所が決まったら、訴状を作成します。訴状には、誰が誰に対して、いくらの金銭を請求するのかを記載し、あわせて、その金額をどのように算出したのかも示します。そのため、相続人の範囲や遺留分の算定基礎となる財産、遺留分の割合、生前贈与の有無やその評価額といった点を、事前に整理しておかなければなりません。

訴状とともに、戸籍や遺言書、預貯金の資料、不動産の資料、生前贈与に関する資料、内容証明郵便など、主張を裏づける証拠を提出します。

提出の方法は、ご本人が手続きを行う場合、裁判所のシステムを利用したオンライン提出のほか、書面による提出も可能です。弁護士が訴訟代理人として手続きを行う場合は、原則としてオンラインでの提出となります。

提出後、裁判所が訴状の内容を確認し、不足や修正すべき点について、補正を求められることがあります。

裁判期日

裁判所に訴状を提出すると、裁判所において訴状の内容や添付書類が確認されます。

訴状に大きな不備がなければ、裁判所は原告側の予定も確認したうえで、第1回口頭弁論期日を指定します。口頭弁論とは、当事者双方が裁判所で主張を述べ合う手続きのことで、その日程が「期日」です。実際には、あらかじめ提出した書面の内容を法廷で確認していく形で進むことがほとんどです。

期日が決まると、相手方に対して、訴状の副本、期日に出頭するよう求める呼出状、反論を書面で提出するよう求める書類などが送付されます。第1回期日は、訴状を提出してから2か月程度の日程を指定されることが多いです。

相手方は、訴状の内容に対する反論をまとめた答弁書を提出し、必要に応じて証拠も提出します。第1回期日に相手方が出席しない場合であっても、答弁書を提出していれば、その内容を法廷で述べたものとして扱われることがあります。

第1回期日の後は、おおむね1~2か月に1回程度のペースで期日が開かれ、当事者双方が自分の主張をまとめた準備書面や証拠を提出しながら、裁判所とともに争点を整理していきます。この段階に入ると、公開の法廷ではなく、会議室のような部屋で当事者と裁判所が協議する形に切り替わることも多く、ウェブ会議を利用して進められる場合もあります。

争点の整理が進んだ後、必要に応じて、当事者本人や証人の尋問が行われます。とりわけ不動産や非上場株式の価額が大きく争われる場合には、評価に関する資料を提出したり、鑑定が必要になったりすることもあります。

判決または和解

裁判の終わり方は、大きく「判決」と「和解」の2つに分かれます。

判決は、裁判所が最終的な判断を示して決着をつける方法です。これに対し、和解は、裁判の途中で当事者双方が合意し、話し合いによって解決する方法をいいます。

和解

実際の裁判では、判決まで進まず、途中で和解が成立することも少なくありません。裁判所が、双方の主張や提出された証拠をふまえて、和解案を示すこともあります。

和解では、支払う金額だけでなく、支払いの期限や分割払いとするかどうか、支払方法といった点まで、当事者の合意で柔軟に定めることができます。そのため、判決による解決よりも、それぞれの事情に沿った内容になることもあります。

双方が和解の内容に合意すると、裁判上の和解が成立し、裁判はそこで終了します。

判決

一方、和解がまとまらない場合には、裁判所が判決を言い渡します。判決では、遺留分侵害額として支払うべき金額、そのように判断した理由などが示されます。

判決の内容に納得できない場合は、判決書を受け取ってから2週間以内であれば、控訴をして、上級の裁判所で改めて審理を求めることができます。この期間内に控訴がなければ、判決は確定します。

判決が確定してもなお相手方が支払わない場合には、預貯金や不動産、給与などに対する強制執行を検討することになります。

裁判の注意点

遺留分侵害額請求の裁判では、期限内に対応することと、証拠をきちんと準備することが大切です。

一切無視して欠席すると相手の主張通りの判決になってしまう

裁判所から訴状や期日呼出状が届いた場合には、まず必ず中身を確認してください。

これらの書類を放置し、答弁書による反論もしないまま期日を欠席すると、相手方の主張する事実を争わないものとして扱われることがあります。

その結果、審理が実質的に行われないまま、相手方の請求どおりの判決が言い渡されるおそれがあります。

実際には、遺留分の金額、財産の評価額、生前贈与の有無、時効の成否など、反論の余地がある点は少なくありません。届いた書類を確認しないまま欠席してしまうと、こうした主張をする機会を失うことになります。

裁判所からの書類が届いたら、答弁書の提出期限や第1回期日を確認し、早めに対応することが大切です。

手続きが複雑で弁護士が必要となることが多い

遺留分をめぐる裁判では、法律の専門的な知識に加えて、資料を整理し、筋道立てて主張を組み立てる力が求められます。

まず、相続人の範囲、遺産の内容、遺留分の割合、生前贈与の有無、不動産などの評価額といった点を、一つひとつ確認していかなければなりません。

そのうえで、訴状や答弁書、準備書面といった書面を作成し、期日ごとに提出していくことになります。

さらに、自分の主張を裏づける証拠を、裁判所に伝わる形で整理して示す必要もあります。

こうした作業をご自身だけで進めるのは、決して容易ではありません。遺留分の裁判は専門的な判断を要する場面が多いため、弁護士のサポートを受けながら進めることをおすすめします。

よくあるご質問

最後に、遺留分侵害額請求の裁判について、よくいただくご質問にお答えします。

調停せずにいきなり裁判を起こせる?

遺留分侵害額請求のような家庭内の争いについては、訴えを起こす前に、まず家庭裁判所に調停を申し立てなければならないとされています。

そのため、調停をしないまま訴状を提出しても、裁判所の判断で、調停での話し合いに移されるというのが原則のルールです。

もっとも、裁判所が調停による解決は難しいと判断した場合には、調停を経ずに、そのまま裁判の手続が進められることもあります。すでに当事者同士で十分に話し合いをしており、これ以上協議を重ねても合意の見込みがないような場合です。

裁判の費用はどのくらいかかる?

裁判には、裁判所に納める費用と、弁護士に依頼する場合の弁護士費用がかかります。

裁判所に納める費用の中心となるのが、訴え提起手数料です。訴え提起手数料の額は、請求する金額、訴状の提出方法、相手方の人数などによって異なります。裁判所が公表している最新の手数料額早見表でご確認ください。

このほか、不動産や非上場株式の評価について鑑定を行う場合には、別途、鑑定費用がかかることがあります。

弁護士費用は、事務所や事案の内容によって変わります。

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申立てから解決までの期間は?

遺留分の裁判は、1~2年程度かかることが多いです。

不動産や非上場株式の評価額、生前贈与があったかどうか、遺産の範囲などが争いになると、その分だけ主張や証拠のやり取りが重なり、より長引くこともあります。

期間は、争点の多さや相手方の対応によって大きく変わります。裁判に進むかどうかを決める前に、ご自身の事案ではどの程度かかりそうか、弁護士に見通しを確認しておくと安心です。

裁判を起こせば時効は止まる?

遺留分侵害額請求権は、相続の開始と遺留分の侵害を知ったときから1年以内に行使しなければ時効で消滅します。

期限内に相手へ内容証明郵便などで「請求する」という意思表示をしていれば、1年の時効完成を防ぐことができます。

そのうえで裁判を起こすと、審理中は時効の完成が猶予され、判決等が確定すれば時効期間がリセットされて10年に延びます。

どこの裁判所に申立てすればよい?

訴訟を起こす裁判所は、請求額と地域で決まります。

まず、請求額によって裁判所の種類が変わります。

請求額 訴訟を起こす裁判所
140万円以下 簡易裁判所
140万円を超える 地方裁判所

次に、どの地域の裁判所に出すかを確認します。遺留分侵害額請求では、次のいずれかが管轄になることがあります。

  1. 相手方の住所地の裁判所(多いパターン)
  2. 請求する人の住所地の裁判所(金銭の支払いを求める訴訟のため、義務履行地として)
  3. 被相続人の最後の住所地の裁判所

管轄は事情により変わるため、申立ての前に確認しましょう。

まとめ:悩んだら弁護士に相談

遺留分侵害額請求は、まず当事者間の協議や家庭裁判所の調停による解決を目指し、まとまらない場合に裁判へ進むのが一般的な流れです。

裁判では、遺留分の算定基礎となる財産の範囲やその評価額などについて、双方が主張と証拠を出し合い、和解または判決による解決を目指すことになります。

もっとも、そこに至るまでには、請求の期限、どの裁判所に訴えるか、財産の評価、証拠の準備など、専門的な判断を要する場面が少なくありません。対応が遅れると、請求そのものができなくなったり、十分な反論をしないまま不利な結果になったりするおそれもあります。

「遺留分を請求したい」「請求されている」「裁判になる前に解決したい」といったときは、早めに弁護士へ相談しましょう。

よつば総合法律事務所では、相続に関するご相談を数多くお受けしています。遺留分のことでお悩みの際は、お気軽にご相談ください。

監修者
よつば総合法律事務所 弁護士 杉山賢伸

NPO法人相続アドバイザー協議会認定会員。丁寧で、わかりやすく、相談しやすい弁護士として、幅広い相続のお悩みに対応いたします。お気軽にご相談ください。千葉県弁護士会所属(登録番号65705)。